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    2011

08.31

Papa told me.3.

 迎えに来てくれたのは、お父さんと、高校生くらいのお姉さんと、背の高い派手な人。
(いったいどこでそういう人間引っ掛けてくるんだか…)
 色々言いたいことはあったが、二人が父親とどのような関係であれ、乱してはならないもののような気がした。
「はじめまして。鏑木楓です」
 ぴょこんとお辞儀をすると、トップで結われた髪も踊る。
「始めまして、私はカリーナ・ライル。今日はあなたの衣装アドバイザーとして同行するわ。鏑木さん……あなたのお父さんはお留守番だから、女の子だけで楽しみましょ」
 にっこりと微笑むブルーローズに小声で聞いた。
「……あの人も、女の、子…?」
 ちらりとファイヤーエンブレムを見て、慌てて視線をブルーローズに戻す。
「あらぁ、私もちゃんと女の子で数えてよね。ネイサン・シーモアよ。アドバイザー兼保護者として一緒に行くわ」
(やっちゃった…聞こえてたんだ、どうしよう)
「子って歳じゃないけど心は乙女らしいからこういう買い物のときはおじさんより役に立つんじゃない?」
 妙に「おじさん」に力がこもってるような気がする。確かに、カリーナにとっては充分おじさんだ。
「軍資金は私が預かっているわ。さ、行きましょ」
 弾んだ声で、高級車の運転席におさまるネイサンである。普段レトロといえば聞こえは良いが、古びたワンボックスに乗っている楓にしたら、こんな高級車はなんだか居心地が悪い。
 車の後部座席に乗ると、続いてカリーナが乗り込んできた。
「奥につめて、シートベルトして」
「は、はいっ」
 緊張しているのは仕方ないだろう。
「もしかして、今日の目的、聞いてないの?」
 こくり、と小さく頷く。
「まぁーったく、タ…虎徹ちゃんって肝心なことが抜けてるわよねぇ」
「一応訊くけど、見晴らしの良い高いビルの最上階に、回転するレストランがあるの。行ってみたい?」
「誰と行くの? ……まさか、お父さん…?」
「プラス、今回のご馳走はなんとあのバーナビー・ブルックスJrよ」
「えええええ!? 本当にお父さん、アポ取ったんだ!?」
 自分を喜ばせるための方便だと、すっかり思っていた。
「バーナビーさんって、忙しいんじゃないの…?」
「そこに無理を言ったのよぉ、あなたのために、あなたのパパが」
「これなら場所はどこでもよさそうね。じゃ、そのレストランにふさわしい洋服、買いに行きましょ」
 ようやく、父親が邪魔なことが分かった。とにかく女性は買い物が大好きだ。ウィンドウショッピングするだけでも楽しいのに、男性にはそれが理解できないらしい。
 はっと我に返った楓は、自分がいつもの普段着で、いつもどおりの髪型で来たことが、とても恥ずかしくなった。
(こんなことならもうちょっと女の子らしい格好してくるんだった…)
 シュテルンビルトは大都市だ。自分は、田舎の小娘だ。
「あの、ごめんなさい、私いつもの格好で来ちゃって……」
「いつもじゃない格好になって、パパも驚かせちゃうのよ。だから今はいいのよ、それで」
 ルームミラーに映ったネイサンの笑顔に、楓はほっとした。
「もひとつ訊きたいんだけど、良いかな」
「「なぁに」」
 同じ返事が返ってくるのに、思わず楓は小さく吹き出した。
「ふふふっ。あのね、お父さんとどういう関係なの、二人とも。仕事で会うんだったら、ライルさんはまだお仕事してない年齢でしょ。シーモアさんも…なんだかお父さんとはそぐわない感じ」
 でも妙な連帯感も感じたのよね、と腕組みをする少女に、カリーナは余裕の笑顔で答えた。
「私、確かに高校生だけど、バーで歌ってるの」
「私は飲み友達ってところかしらねぇ、そのバーの」
 心配するようなことは何もないわ、と二人は口調を合わせる。この辺り、事前に仕込んでおいたネタではあった。
 まったくの嘘は看破され易いが、事実そのような一面もあるだけに、嘘をつくのが苦手な虎徹と違って、二人にとっては余裕の会話である。ただ、虎徹を「タイガー」と呼べないことだけは、ぎこちなさを感じはする。
「今日の格好はボーイッシュでそれはそれで良いんだけど、どうせなら素敵なレディに変身しないとねぇ」
「シルバーステージのアウトレットモールよ、ネイサン。ゴールドステージじゃ、背伸びしすぎだわ」
 さらに上へ行こうとハンドルを握るネイサンに、カリーナが指摘する。
「9歳なのよね、楓ちゃん。あんまりガーリッシュなのも苦手なんでしょ」
「……分かるの?」
「似たような子を知ってるだけよ。ね、どんなブランドが良い?」
 ファッション雑誌をめくりながら、他愛ない会話を続けた。
 いつの間にか、楓の警戒心はすっかり溶けてしまっていた。


 あんまり女の子しすぎてるのはちょっと、という楓の意見を聞き入れた二人が選んだのは、ふんわりシフォンの水色のワンピース。髪は下ろして、様々な青色に光るビーズで丁寧に作られたカチュームを留める。カチュームとお揃いの腕輪をした。靴は紺色のラウンドトゥ、エナメルでストラップが付いている。
 化粧はといえば、眉を整えて頬紅を軽く注し、唇にたっぷりのグロスを乗せただけである……が、印象がずいぶんと大人びて見える。
「よし、完了」
 メイクをかってでたのはカリーナである。虎徹の家に上がるのはそれはそれは緊張したが、「楓のため」という大義名分がある。家の場所も知ることができてラッキーと思わないこともない。
 靴とお揃いのエナメルのポシェットにグロスを入れると、にこりと微笑んだ。
「変じゃない…?」
「あら、私の見立てに文句でもあるの?」
「だってこんなの、初めてだし…」
「大丈夫よ。まずはパパにお披露目ね」
 鏡のあるパウダールームから少女の細い肩を押して、さぁと促す。

「楓?」
 うつむいたまま何も言わない娘に、虎徹は心配そうに声を掛けた。スカートをぎゅっとつかみ、何をか言いたそうな様子ではあるのだが。
「……お前、友恵に似てきたなぁ」
 微笑みながら、ぽんと大きな手のひらを頭に乗せた。
「ちょっと、せっかくセットしたんだから崩しちゃダメよ、タ…鏑木さん!」
「おぅ、そりゃ悪ぃ。ありがとうよ、ブ…カリーナ」
 名前をお互い噛んでいる。いつもと違う呼び方で慣れていないのだ……が、楓に気付く余裕はなかった。
「お父さん、私……変じゃない?」
「変なわけないだろう! 任せて良かったよ、ありがとうな、カリーナ」
「それよりちゃんと聴きに来てよね…っ」
「おぅ、分ーってるって」
「あの、ライルさんっわざわざありがとうございました!」
「どういたしまして。借りはパパの方につけておくから気にしないでね」
 にっこりと微笑みながらひらひらを手を振る。――今回、虎徹はどれだけの借りを作ったのだろうか。考えないことにして、今は楓に集中する。
 す、と差し出した虎徹の左手に、自然と楓は自分の右手を重ねた。
 ごく自然な、親子の形だった。左の薬指のリングの光が、カリーナには眩しかった。あのリングをはめた人は、どんなに幸せだったんだろう――と考えつつ、いやいやと首を振る。
(私はもう、関係ないんだから。しっかりしろ、カリーナ・ライル!)
「おーいカリーナ、ついでだから送ってくぞ、乗ってけ!」
 鈍感なおじさんはあくまで鈍感だった。


 バーナビーは赤いダブルボタンのスーツを着こなし、ホテルのフロントで楓と虎徹を迎えた。
(うわー!うわー!うわー! 本物だ!!)
 ぽかんと見上げてしまった楓は、バーナビーにじっと見つめ返されて、慌ててぺこりと頭を下げた。
「あの、前回は助けてくれて、ありがとうございました。鏑木楓ですっ」
「覚えてますよ、まさか虎徹さんの娘さんだということは知りませんでしたけど」
 どこまで親しいのか、楓にはさっぱり分からなかったが、思った言葉は言わないと意味が無い。思いきって聞いてみることにした。
「実は私、お父さんの仕事、何してるとか知らないんですけど、どうしてバーナビーさんはお父さんの無茶なお願い、聞いてくれたんですか?」
「僕を助けてくれたからですよ」
 え、と思わずバーナビーを見たのは、楓だけではなかった。虎徹も、シナリオに無い発言にいったい何が起ったか分かっていなかった。
「最上階でしたよね、行きましょう。娘さんはこんなにお洒落をしてきてくれてるのに、虎徹さんはいつもと変わらない格好ですね」
「まぁ良いじゃねぇか。今日の主役は楓なんだしさ、気にすんなよバニー」
 言ったところで、思いきり楓は虎徹の足を踏みつけた。
「バーナビーさん、でしょ」
 幸いヒールのある靴ではなかったが、ツンとした楓の言い方に、虎徹は大いに傷ついた。
「良いんですよ、楓さん。何度言っても直さないんですから、もう慣れました」
「何度も? ちょっとお父さん、常識無いんじゃないの?」
「いやだってさぁ楓ぇ、ヒーロースーツ姿見たことあんだろ? こう、お耳がピーンと」
「それ以上言ったらもう口きかない。黙ってて」
 くすり、とバーナビーは微笑った。
「いいですね、家族って。そういう遠慮の無い他愛ない話ができる相手が、僕にはもういませんから……」
「ほんっとうに失礼な父でごめんなさい、バーナビーさん。こんなので良ければ熨斗つけてお譲りします!」
 そんなに物欲しそうな顔をしていただろうかと思いつつ、楓の発言に否やは言わず、ちらりとバディを見やったバーナビーだった。
「……楓さん、虎徹さんが涙目になってますよ」
「だって、約束は守らないし、肝心なときにいないし、なんにでもマヨネーズかけちゃうし、チャーハンしか作れないし…。そんな心配これからずっとしなくちゃならないんだったら、大事にしてくれそうな人にあげる方が良いに決まってるじゃないですか」
 耳に痛い発言はあるものの、父親を心配する娘としては真っ当な意見にも聞こえる。
「言いたいことあってもすぐに逃げちゃうし、わけ分かんない理屈ではぐらかそうとするし。そんなお父さんでも……お父さんは、子離れするべきなんです。……あ、ごめんなさい、やっぱりいらないですよね……」
(私何言ってるんだろう)
 バーナビーの過去については、テレビでも告知されていた。犯人が捕まってめでたしめでたし、という状況なのも分かる。
 そして、楓が虎徹のことを口にするたび、バーナビーは羨ましそうな目をする。気がついていないのは、当人たちだけということなのか。
「バーナビーさん、……なくしたからすぐ次の代わりを、なんてできるわけないけど……私もお母さんが死んじゃったからぜんぜん分からないじゃないですけど、でも、欲しいものは欲しいって言わなくちゃ、お父さんみたいな鈍感な人には、わからないです。絶対」
 言葉の最後に力をこめて、じっとバーナビーを見つめ返した。
 大人たちは何も言わない。虎徹に限って言えば、娘に物扱いされたことがショックで立ち直れていない。
「……そうですね」
 ようやくバーナビーは一言だけ返した。翠色の瞳に力が戻ったように感じられた。
「もう少し、あなたのお父さんを借りていていいですか? 仕事が入れば振り回してしまうし、なかなかあなたにも会いに行けないと思います」
「今までだって「帰る帰る」詐欺には何度もあってるから大丈夫です。でも、バーナビーさんの助けになるお仕事って……ほんとに何やってるの、お父さん?」
 急に振られて、虎徹はもごもごと口ごもる。
「あぁ、いや、友恵に約束したんだ、言わねぇって。悪ぃな、楓」
「変なところで頑固なんですね、あなたのお父さんは」
「やっぱりそう思います? 失礼な上に頑固だなんて、ホントどうしようもない」
「でも楓さん、僕はこの歳になるまで両親の死に囚われていた。それが吹っ切れたのは、このおじさんのおかげでもあるんですよ」
 だから、どうしようもないなんて言わないであげてください。
 そんな風に聞こえた気がした。



 私は鏑木楓、もうすぐ10歳。
 ちょっとだけバーナビーさんの寂しさを知って、ほんのちょっとだけ大人になれた気がする。
 お父さんのお仕事は相変わらず謎だけど、憧れのバーナビーさんの役に立ってるみたいで、なんだか少し誇らしかった。でも、誰にも内緒にしておこうと思うの。
 ふわふわのお洋服を用意してくれたお姉さんたちと知り合えて、ヒーローTVでは見ることのできないバーナビーさんの一面を知って、絶対内緒にしなくちゃって思ったこの休暇。お父さんの秘密に迫れるかなと思ったけど、もう少し先までそれはおあずけみたい。
 今はしょうがないか。

 いつか、お父さんやバーナビーさんの役に立てるような大人に、なれたら良いな。
 そのころにはお父さんも大事な人を見つけていられたら、もっと良いな。
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