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    2011

08.31

Papa told me.2.

 きらきらと楓の黒い瞳が輝いた。
「会えるの!?」
 ヴィジフォンを間に挟んで、親子は久し振りに会話を果たしていた。その喜びように、内心虎徹はほっとした。こんなことならもっと早くに会わせてやれば良かったのか。
「楓ぇ、お前がそんなにヒーロー好きだったなんてパパ知らなかったよぉ」
「その気持ち悪い話し方、しないでっ! 私もう子どもじゃないんだから」
 ぷぅ、とむくれる姿も、虎徹の目には可愛く映る。
「あと、好きなのはバーナビーさんだけで、他のヒーローは別にどうでもいいんだからっ」
 ツン、と顎を反らせて虎徹にダメージを与えまくる。容赦がない。
「でも……お仕事の邪魔にならないかな、バーナビーさんって忙しいんでしょ」
 気が利くのは母親譲りか。
「あぁ、大丈夫だ。確かに途中で仕事が入ったら抜けなきゃならないかもしれないけど、全く会えないって程でもないだろ」
「じゃ、ちょっとだけお父さんのこと信じてみる。ホントのホントに会えるのね、シュテルンビルトに行っても良いのね?」
 うんうんと眦を下げて虎徹は答える。
 楓の住む田舎と違って、シュテルンビルトは大都市だ。大都市であるが故、危険も誘惑も田舎とは比較にならない。けれどヒーローが二人も……楓は知らないにしても、二人のヒーローが守るのだ。
「あー楓、あとほしいものとか行きたい場所とかあったらちゃんとパパに言うんだぞ」
「わかってるって。お父さんそういうの疎いもんね。ちゃんと言うからちゃんと返事してよ!」
「悪いって、ごめん、どーしても仕事が…っと、ごめん楓、仕事だ」
 左腕のリストバンドが光っているのは、楓には見えない。
「もう、お父さんってばいったい何やってるのよ。秘密秘密ってずーっとそればっかり」
 作文も書けなかった、と楓は頬を膨らせる。
「だぁからごめんってばー楓ぇ~」
「もう知らない!」
 がちゃん。受話器を乱暴に置く音が、耳に痛い。けれどそのとき既に虎徹の表情はヒーローのそれになっていた。


 はぁ~~とため息をついて、トレーニングルームに戻った虎徹は、バーナビーから紙コップを受け取った。中身は冷たいコーヒー。一気にあおると、もう一度肩を落とす。
「何かあったんですか、虎徹さん。今日はミスなくポイントも取れたのに、ずいぶん浮かない顔ですね」
「あぁ、楓に「もう知らない!」とか言われちゃってさぁ……」
 娘のこととなると、落ち込んでばかりだ。
「ちょうど招集かかったときに、楓と話してたんだよなぁ」
「少しへこんでいるくらいの方が無茶をしないで済むって訳ですか」
「本気で悩んでんのにバニーちゃんは」
「分かってますよ。彼女と会っているときに招集がかかったら、虎鉄さんは彼女といてあげてください。少しくらい、僕だって一人で大丈夫ですから」
 にこりと微笑まれると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議なものだ。ジェイク・マルチネスを倒してからというもの、確かにバーナビーは人当たりが柔らかくなった。精神的に余裕ができたのだろうか。ウロボロスについてはその後まったく情報は得られていないが、地道な調査は警察によって続けられている。
「まぁ、そのときは頼む。一応楓には行きたい場所とか欲しいものとか聞いてみたんだけど、途中で会話切れちゃったし……」
 言いながら、また、肩を落とす。
「ナニナニ、バーナビーがタイガーをいじめてるの?」
 ひょこりと顔を出したのは、ドラゴンキッドだ。電撃とカンフーの使い手である少女が、ヒーローでは最年少。そういえば、とバーナビーの方から少女に話を切り出した。
「そういえばドラゴンキッド、ご両親にどこかへ連れて行ってもらうとしたらどこが良いって言いますか?」
「え、僕? うーーーーん……会えるだけでも嬉しいんだけどなぁ……どこ、どこ…ねぇ、ブルーローズはどこに行きたい?」
「はぁ? 何でアタシ? っていうかもう親と出かけて嬉しい年齢じゃないわよ。ちょっと折紙サイクロン、たとえばあなただったら?」
「僕も…ドラゴンキッドと一緒で会えるだけで嬉しいかな。夜景のきれいな場所へ連れて行ってあげたいとか、そういうのじゃだめかな」
「素晴らしい! 実に素晴らしい親子愛だ! 私ならば空からこのシュテルンビルトを観光させたい!」
 いつの間にか話がすり替わっている。そして人が増えている。落ち込んでいるわけにはいかなくなった虎徹が、そうじゃねぇよとスカイハイを制した。
「子が親を、じゃなくって親が子を、だ。9歳って何だ? どうにも難しくってだなぁ」
「え、9歳の子持ち!?」
 超反応したのはブルーローズだった。子供がいるのは知っていたが、もうそんな年齢だとは。
「どうやらこの僕、バーナビー・ブルックスJrのファンらしくてね。普段寂しい思いをさせているその子に何かしてあげたいみたいなんだけど、このおじさんは頭が固くて子供の気持ちがわからないときてるんだ」
「あらぁ、誰の気持ちにだって気付かないわよ、ねぇ。タイガーは。鈍いもの」
「確かに鈍いな。鈍いお前がどうやって友恵さんを口説き落としたか、よーく思い出してみるんだな。話はそれからだ」
 ファイヤーエンブレムとロックバイソンが横から口を挟む。
「貴様ら揃いも揃って好き勝手なことを…」
 虎徹の堪忍袋の緒が切れる前に、バーナビーがまぁまぁと肩に触れた。
「僕は両親の代わりにマーベリックさんに色々な場所へ連れて行ってもらいましたよ。小さすぎて覚えていないんですけどね……覚えているのは、両親が亡くなったあの日のことだけで」
「あぁ、悪ぃな、嫌なこと思い出させちまって」
「良いんですよ、もうジェイクは死んだんですから」
 にこやかにバーナビーは言い切った。
 だが、まだ分からないことが多すぎる。ウロボロスの一員である、ジェイクと一緒にいたあのクリームという女はまだ目を覚まさない。そんな不安要素もある中、バーナビーは憑き物が落ちたように晴れやかだった。まるで世界が違って見える、と。
(まぁ、だから楓に会ってくれなんて言い出せたんだけど……)
 鈍いと言い切った二人には拳骨をお見舞いしてみても、なぜかバーナビーには気を遣ってしまう。強く言い出せない。
「ほら、シュテルンビルトの観光案内パンフレット! もらってきてあげたわよ、わざわざ私が」
 ブルーローズが、役に立たない男どもを尻目にいくつもあるリーフレットや小冊子を机に広げた。
「このビルのコンシェルジュって結構使えるのね、おのぼりさんには」
 なんとなく言葉に棘があるようだが、ロックバイソンの首を絞めていた虎徹はその腕を解き、謝意を示す。
「悪ぃな、ブルーローズ。すんげー助かるわ」
「気付かないほうがおかしいのよ」
「あ、僕ここ行ってみたいな、最上階の回るレストラン!」
 横からひとつさらったドラゴンキッドが、紙面の一角の「夜景スポット」と紹介されている箇所を指差した。
「子どもっぽい」
 早速ブルーローズに駄目出しを食らったが、でも、とドラゴンキッドは続ける。
「9歳なんでしょ、僕なら喜ぶから僕よりちっちゃい子ならもっと喜ぶよ!」
「私は喜ばないってこと。で、バーナビーと会うんでしょう、服の一式くらい揃えて買ってあげるとかしなさいよね」
 子どもっぽいと切り捨てたものの、ドラゴンキッドの提案にはどうやら乗り気らしい。年少者に対する意見は年少者に聞くほうが良いと、分かってはいるのだ。
「夜はお酒も飲めるみたいだから、9歳児にはちょっと高尚なんじゃなぁい、ブルーローズ」
「ファイヤーエンブレムには分かると思ったんだけど? 乙女心」
 乙女と言われて途端に頷くファイヤーエンブレムである。
「そうね、お出かけ着は買ってあげるべきよね」
 虎徹は嫌な顔をした。女性陣の買い物がとかく長くて大変な労力を伴うものであることを、経験則で知っていたからだ。
「今持ってるもんじゃ、だめなのか?」
「タイガー、あなた乙女心を分かってないわねぇ。好きな人に会いに行くんだったらめいっぱいおしゃれしたいわよね、ブルーローズ?」
「もちろんよ」
「でもわざとっぽくて僕はやだなぁ。だって女の子みたいな格好しなくちゃならないんでしょ?」
「ドラゴンキッドも好きな人ができたらそういうようになるわよぉ」
 くねくねと踊る大男ははっきり言って見たくない。だんだん何の話か分からなくなってきた虎徹は、上を仰いで右手を額に当てた。
「夜景を見るための洋服か? なんか違うような気が…」
「「しないわよ」」
 二人の「乙女」に迫られる。
 ぐ、と身を引いた虎徹は、だったら、と持ちかける。
「お前ら二人、楓の買い物に付き合ってもらえねーかな?」
「虎徹さんにしてはいいアイデアですね。二人の穴は僕たちで埋めましょう」
「で、着飾った娘さんとタイガーはもちろん、バーナビーもお食事のときは休業ね」
「僕は召喚されたら行きますよ。ヒーローですからね。休むのはおじさん一人です」
「何だそのまるで俺がヒーローじゃないみたいな言い方」
「でも呼び出されて困るのはタイガーの方なんでしょ?」
 どうやらブルーローズも、虎徹が楓にヒーローであることを明かしていないと知っているようだ。四面楚歌。
「どうしてもってタイガーが言うなら、カリーナ・ライルとして、買い物に付き合ってあげてもいいわ」
 素直に甘えておいた方が良さそうだと判断した虎徹は、両手を合わせてまた懇願ポーズである。
「悪ぃっ。二人とも、頼まれてくんねえかな?」
「今度いつものバーでお酒でもおごって頂戴よぉ」
「……また、歌を聴いてくれるんなら、聞いてあげないこともないわっ」
 擦り寄ってくる大男と、つんと顎をそらせた少女と。
「楓のためなら何でもする!」
 ぴしっ。
 空気が凍った気がした。
 不機嫌そうなブルーローズと、これまたどうしたことかさっきまでの余裕を吹き飛ばしたバーナビーと。二人から妙なプレッシャーを感じる。
(何で?)
 途方にくれた表情の虎徹に、ロックバイソンがぼそりと言った。
「お前、本当に鈍いんだな」
「んだとぉ? お前に言われる筋合いは」
 ない、と続けようとしたところで、スカイハイに両肩をつかまれた。
「感動した。私は感動したぞ、ワイルドタイガー。君はなんて良い父親なんだ!」
「いやぁ、いつも約束破ってばかりの駄目な親でぇぇぇぇぇ!?」
 前方にスカイハイ、そして後方にバーナビー。スカイハイから引き剥がすように、後ろからバーナビーが虎徹の両肩をつかんで引き寄せた。
「その話はもう聞きました」
 聞いてないし! というその他全員の視線をものともせず、バーナビーはそのまま虎徹を引きずってトレーニングルームから出て行ってしまった。
「何あれ」
 ブルーローズの一言が、その場全員の言葉を代弁していた。


 ロッカールームまで引きずられた虎徹は、押さえつけられるようにしてベンチに座らされた。
(何か悪いことしたっけなぁ…?)
 バーナビーの眼鏡の奥が、心なしか恐ろしい。どうやら怒らせてしまったようだと、そこまでは気付いたのだが、何に怒っているのかは皆目見当がつかない。
「……あのさ、今のってさすがにちょっと感じ悪くない? バニーちゃん?」
「バーナビーです。虎徹さん、あなた、自覚はあるんですか?」
 何の、と訊きたいが、聞ける状況ではなさそうだった。
「……どれだけ僕が心配しているか、気が付かないんですか」
「心配?」
 見上げたバーナビーに、ついと目を逸らされた。
 これがもしブルーローズであったなら鈍感と罵られるだろうし、ファイアーエンブレムであったなら鈍いのねぇと言われながらセクハラまがいの行動を取られるのだろう。が、相手は幸か不幸かバーナビーだった。
 そして、その鈍感であるところの虎徹は、押さえつけられ上がらない腕を無理やり動かして、ぽんぽんとバーナビーの肘を軽く叩いた。
「だぁーいじょうぶだって、バニー。何を心配してんのかは良く分からねぇけど、そんなに深刻な問題なんて」
「あるから心配してるんです。無自覚に人の気も知らないで何でそんなに愛想振りまいてるんですか」
 一息に言うと、はっと我に返り、力いっぱい押さえつけていた虎徹の両肩を解放する。かっと頭に血が上り、頬が赤く染まるのが分かる。
 言うつもりなんてなかったのに。
 思いっきり後悔の念を露わにして、とにかく、と続けた。
「娘さんと会ったら何でも言うことを聞いてくれるということでしたよね」
「何でもっつうか、まぁ、そう、だな」
 見上げているのは首が疲れる。そんな風を装って、頬を染めたバーナビーから視線をおろした虎徹が口篭る。
「じゃぁ約束してください。一日だけで良いですから僕に束縛されることを」
「ヒーローの仕事はどうすんだ?」
「僕のアシストをしてもらいます。周りはみんなライバルですから」
 束縛。
 その意味をあまり深く考えず、虎徹は応、と答えた。
「おはようからお休みまで一緒にいてやるよ」
「……違えないでくださいね?」
 視線を逸らしたときからずっと見つめられているのが分かる。鼓動さえも伝わるだろう至近距離。
「何なら子守唄も歌ってやるぜ。友恵仕込みのとっときの奴を……って何でそこで睨むんだ」
「他の人のことも考えないでください。奥さんのことも娘さんのことも」
「バニーちゃん……ずいぶんな難問を出すもんだなぁ」
 分かっている。これは嫉妬だ。流石に虎徹も気が付いただろうか。
「善処する。でも楓に心配かけたくねぇからな、あいつに会うときは取っときの笑顔で頼むぜ、ヒーロー」
 虎徹は、ぽす、と拳をバーナビーの腹に当てた。

 そのときバーナビーがはにかんだように微笑んだことを、虎徹は知らなかった。
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