--

--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告:  トラックバック(-)  コメント(-) 

    2010

12.01

贈り物2

 苦々しい表情で、カヤは答えた。
「知ってるわ。スイから聞いた後、エーダにも確認したもの。本来なら交配させないで一代で終わらせていた研究体だったって彼女、言ってた」
 それをあくまで研究対象としてではあるが次世代をと望んだのがエーダであることも、聞いていた。天使の姿と強さを願って、交配には遺伝子操作が繰り返されていたことも。
 けれど、第一世代の研究者達が次々とリタイアしていくと、天使の姿をと強く願う研究者は少なくなっていった。守護者が交配により、より力を強めていくと、守護者自体の覚醒を待つべきではないかという声が大きくなっていった。覚醒、或いは突然変異。願う姿がいつ現れるかは、さっぱり分からなかった。五代目十二月守の失踪と再来を経て、守護者は研究者達から独立した。それを陰で支えたのは、すでにシステムマザーとして稼動していたエーダと、その兄である伯爵、親友にして人工生命の権威である女史である。
「それを先代は知っていたのか?」
 ライザの問いに、カヤは首を横に振った。
「ミドリさんは知らなかったわ。目を瞑っていれば知らずに過ぎていくことって、結構あるものよ」
「そんなのアタシだって分かるわ。ただ、長なんだもの、知ってて当然って思うじゃない」
「五代目が巧妙に隠したのよ。カヤだってスイから教えられなければ気付かなかったわ。スイはフウナがデータを吹き飛ばしちゃう前に、外部にデータバンクを作っていたの。カヤが小さくたって、次の十二月守になるんだからってスイは教えてくれた」
 きりり、と指の先を唇の端を噛んで、カヤは言った。年齢に似合わない仕草だった。
「スイは色んな意味で守護者の制約を免れているわ。その分捕らわれてもいるけれど」
「五代目ねぇ……ママが生きてればどんな子だったか聞き出すのに」
「あのママの事だ、どこかで生きているよ」
 ソフィア・エルナ・フェンリーン女史を慕っているわけではないのだが、生まれてこられたのは彼女のおかげだ。ママ、と呼ぶのには抵抗はなかった。研究者であり、その研究費を仕事屋として稼いでいたのは、彼女の適応能力のなせる業だった。
 その女史が失踪してもう何年経つか。
「ところでフウナがデータ吹き飛ばしたっての、いつの話?」
 聞いてないんだけど、とリイザが訊く。まだよ、とカヤは応じた。
「いつになるか分からないけど、夢見月が夢見たそうよ、エーダに同調して、壊される夢を。だったら打てる手を打っとかないことはない、って。データバンクが崩壊したら、カヤとてもじゃないけど長をやってく自信ないわ」
 だからカヤはスイの自由な行動を、知っていながら容認したのだ。
 先代ミドリの妨害を受けながら、彼女に知られないように、データを移していく。やり方は、ライザが徹底的に仕込んでいた。データ操作は弱いお前の武器になる、と囁いて。
 スイが自由に動けば動くほど、守護者として縛られているのが顕わになっていった。ぎりぎり外側のラインを、リイザとライザは歩かせていた。これ以上狂わないように、これ以上縛られないように。
 けれど、自縛は利用するしかなかった。それがスイの生きる縁だった。
「何言ってるのよ、先代以上のやり手さん。世界中の有力な家を向こうに回して、とうとう蔡主と月面都市の権利を攫っていったそうじゃない」
「年若い二人が年寄りどもを翻弄するのは、たいそうな見ものだったぞ」
「いやぁね」
 月面に新たな都市を建造することは、ミドリが長になった時点で決まっていたことだった。その権益を巡っての会議は、ここエデンでも開催されていた。カヤは生まれたときからその問題に付き合ってきたことになる。
「どうせなら月へ行ってみる? 外から地球を見たらきっと、エデンなんて小さすぎて、いざこざがばかばかしくなってくるわ」
「だって守護者は基本エデンを離れられないじゃない? スイが行かないならアタシもどこへも出ない」
 守護者はエデンを守るもの。
 守護者はエデンに繋がれるための研究体。
 出られないという暗示を生まれたときからかけられている。それは、一歩も動くことの叶わないエーダのためだった。エデンを――システムマザーを――エーダを、守るもの。
 どこまでをこの人間達は知っているのか。カヤには分からなかった。そんな意識を彼女らが持たないからだった。深くを探ることはしない。それは友人としてのマナーだった。
「まぁ、スイを自由にして良いというなら、口実が何であろうが私は歓待するぞ」
 嬉しそう。年上の友人を、カヤは見上げた。
「期限付きよ」
 念を押す。つまらないの、という呟きを聞いた気がした。
「カヤたちだってスイは手放せないわ。手放せないからこその休養なんだから、働かせずにちゃんと休ませてよね」
「あら、エデンにいれば否応無しに仕事が舞い込むわ。どれだけそれに気付かせずにアタシたちとのドルチェ・ヴィータを過ごせるかは、十二月守であるあんたと、ママであるマリアの働き如何よ」
「そんなの分かってる」
 永遠を生きるなら、余計に休養は必要だろう。ささやかながらプレゼントを、今の内に。自分の力が及ぶ内に。
 自分が永遠に生きるのであれば、スイをうまく使える自信はあった。少し甘えた声で、下から見上げて、「お願い」すればいいのだ。リイザがいつもそうしているように。そうすれば、しょうがないなと言いながらどんな無理なお願いでも聞いてくれる。守護者にとって危険なことも。むしろ、そういう危険なことが、自らやるべきことと考えている節がある。あの二月守は。
 本来二月守――令月は、エデンのルールを守らせるための役目を負う。令を下すのであり、けして危険に首を突っ込むのが仕事ではない。込み入ったところまで暴くのは、スイの習性と言って良いだろう。
 マリアは快く承諾してくれる。それは確信だった。スイの為だと言えば、どんな悪事にも手を貸すだろう。もちろん、スイの決めたルールに則ってではあるが。
 人を殺すことも、嘘をつくことも、厭わない。悪いことよねとあっけらかんと言いながら、スイならば許すだろうぎりぎりをはかって、容赦なく執行する。悩むふりを装っても、それは擬態でしかない。
「……いつかカヤが永遠を願ったら、あなたたちは叶えてくれるかしら」
 即座に帰ってきたのは、疑問だった。
「そんないつかを想像したの?」
「夢見るエーダに言われたのよ。あなたはいつか永遠を願う、って」
「眠り姫の御託宣か」
 エデンの基幹であるエーダは、まれにその夢に未来を映すことがある。過去と現在を見ることのほうが圧倒的に多いのだが。
「叶えてくれる?」
 背の低いカヤは、二人を見上げる格好になる。ただし、媚びてはいない。あくまで、上から。
「スイに頼みなさいよ」
「それじゃ、叶ったも同然ね」
「しかし薬を作れるのはあの伯爵だぞ。眠り姫にしっかり頼み込んでおくことだ」
 にぃ、とライザが笑んだ。
 この二人は、伯爵にどのような代償を支払ったのだろうか。
「で、スイはいつから休暇? 今すぐにでも連れ去っていいわよ」
 どんな代償にも代えがたいのだろう。この二人にとって、スイは家族も同然だった。それも、守らなければならない末の妹。小さな存在。
 上品に微笑んだ顔を作って、カヤは言った。
「今スイが片付けてる仕事が終わったら、期限はあなたたちの誕生日まで。最長一ヶ月よ、すごいサービスじゃない。全く感謝してよね!」
 リイザもライザも声を上げて笑った。
「手伝ってとびきり早く仕上げるわ」
「二十三区のカジノの後始末だったな。あぁそうだ、ついでに訊くが、風邪は治ったか?」
 思い出したように訊く。カヤは肩を竦めてみせた。
「あいにくと熱が下がらないの。だから他の守護者にうつしちゃダメだから、直接あなたたちを招いたのよ。あなたたちが面白くもないと切り捨てるこのトップドッグに」
「私達も一応脳は生身だが?」
「でも風邪罹からないでしょ」
「フウナちゃんの恨み言は聞いて?」
「あれだけ大音量で悲しまれたら嫌でも聞こえるわ。本当はイーハ・ヒューインに帰らせたくなかったのよ、他の守護者への影響が大きすぎて」
「それで能力を遮断する部屋に閉じ込めたか」
 あぁ、とカヤは溜息をついた。守護者以上に、この二人には隠し事ができない。まったく、何をどこまで知っているのか。
「ついでにフウナにも休暇を出そうかしら。二人まとめて面倒見てもらえる?」
 今度は猫撫で声で。唇を尖らせ、媚びる仕草はリイザの真似。
「やっだ、アタシそんな顔しないわよ」
 思うところを汲んだらしい、リイザがその頬を両手で包んだ。
 思考が流れ込む。拒絶と、許容と。
 絶対的な拒絶なら、この二人の猫たちは聴く耳も持たずスイを攫って帰ってしまうだろう。けれどそこまではしない。
「スイに意思は確認した?」
「これからするわ」
「フウナはいらないぞ」
「ただの冗談よ、守護者の問題は守護者で片付けたいわ。ただスイの場合は特殊事例で」
「御託は要らないわ。アタシたちの呪わしい誕生日まで、スイはアタシたちだけのものになる。命令権限を持つのは、十二月守であるあんただけ」
 猫にもその命は通じるのか。カヤはじっとリイザの猫の瞳を見つめた。
 十二月守である自分に触れることを恐れないばかりか、思考を整理してこちらに叩きつけてきさえする。
「スイには、ちゃんと伝える。ただし、薬に関してはカヤからは何も言わない。休日を命じるだけよ」
「それで充分だ」
 どんな贈り物より嬉しいと、リイザもライザも伝えてくる。この二人がどれだけスイを愛おしんでいてくれているか、よく分かる。絶対死なせない、という強い決意と、永遠に一緒にいられる喜びも伝わる。隠そうともしない、意志の強さ。それがカヤにとっての猫の価値、猫の強さだった。
 身体的な強さ以上の精神的な強さは、カヤにとってとても心強かった。
 禁句を問われても、その理由を晒しても、この二人はカヤを厭わず接してくれる。
 裏切るまい。
 そう思って、カヤはリイザに抱きついた。
「触れても怖がらずにいてくれるのはあなたたちくらいだわ。育ててくれた女史に感謝しなくちゃいけないわね。やっぱり誕生日は大事よ」
「アタシたちに面と向かってそんなコト言うのは、守護者くらいのものよ。作ってくれた伯爵や眠り姫に感謝しなくちゃね」
 意地の応酬もまた楽しい。
 そんな間柄でいられるのは、きっととても幸せなこと。
 本人不在で決められた休暇は、猫と十二月守の間も幸せにしてくれた。
スポンサーサイト

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

Next |  Back

comments

コメントの投稿











 管理者にだけ表示を許可
trackback
この記事のトラックバックURL

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。