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    2010

10.21

遊戯・幕間2

 モニターに映った雑多な映像はそのままに、部屋は客人を迎え入れた。情報屋スイである。
 情報屋、と言った場合は、多くは個人を指さない。それは人であるかと仮定したとき、情報屋はそのすべてが人ではなかった。生物であるかと問われれば、一人だけは、と答えられる。守護者十代目二月守翠(スイ)と、そのパートナーであるコンピュータ・マリアが中心なのだ。いずれも人間ではない。そして今では主を持たないデュークス――人形屋デューク製のレプリカント・ドール達の多くがその手伝いをしている。
 主持ちのドールのメンテナンス代だけでは、人形屋はやっていけない。本来人形とは人の言う事を聞くものであるが、初代デュークの作った人形は主の言いつけさえ守らないものが多かった。三代目となった初代最後の人形は、自ら人形を作り出せた。そのように、つくられた。三代目が作り出す様々な人形のほとんどはヒトガタではなかった。鳥、猫、犬、魚。様々な生物の型を写した値頃な商品がつくられていた。
 それに加えて、稀につくられる人間が高値で欲するヒトガタの素体が人形屋の主な収入源だった。一番の上得意は、楽園の猫。ラグドールとリンクスはその姿を服のように変えることで有名だった。誰も彼女らの本来の姿を知らない。伯爵も特に興味を持たないらしく、彼女らのDNAに沿った姿は伯爵はもとより当人達も調べていないという有様だ。生まれる前の姿は、胎児を受け取った女史のみが知っている。両親は、すでに亡い。そこまでは、伯爵も知ることだった。
 今回の人買いブローカーの騒動は伯爵が手を回すという異例の行為で、26区らしからぬ終焉を見た。
 伯爵は、それなりにエデンを愛でていた。自らが設計段階から関わった島だ。そして、妹が人工島を統御する生体コンピュータの核にと志願してから300年余り、エデンに縛られ続けている。
 革張りの椅子の背に深く身を預け、カウチに座る二人に目をやった。
「何故助けた?」
 誰を、とは言わない。分かりきったことだった。
「むしろ俺に頼んでおいて何で助けないか考える方が難しいと思うけどね?」
 伯爵を前に、緊張もしていない。するまでもない。長い間蓄積されたエデンの膨大なデータを手にできる位置に、スイはいた。伯爵が何者であるかも、知っていた。だから、必要以上に畏れる必要はない。
 その態度は、リドルにとって我慢ならないものではあったが、主である伯爵が何も言わないので黙って控えている。
「翠が来なければ、わたし達は放っておこうと言っていたのよ」
「右の猫と人形共ならばそうするであろうな」
 マリアのことも、人形と一括りにする。基はエデン中枢、守護者の居住区であるイーハ・ヒューインのルームコンピュータだ。親子の情の強くない守護者にとっては、生活のほとんどを頼るのがそれぞれの部屋に設置されているこのコンピュータだった。ただ、マリアが特殊なのは、翠がどんどんプログラムを追加していき、己で学び行動するコンピュータとなっていることだ。本体はイーハ・ヒューインにあるが、シンクロするスーパーコンピュータをイーハ・ヒューイン外に備え、端末機と呼ぶ人間大のヒューマノイド・ロイドを多数持っている。
 また「右の猫」とは、彼女らの出生を知る数少ない者にしか通じない言葉だった。リイザとライザの育て親である女史は、戯れに胎児の脳を左右に分け成長させた。脳以外のすべてを機械と入れ替えた女史にとっては只の興味。脳の半分が機械であるか、それともすべてが生体であるかが、二人の娘と女史の違いだった。
 それでも一応人間扱いをする。生きながらコンピュータに繋がれたエーダも、彼女らと似たような者だったからだ。伯爵は、人とそうでないものとの区別を明確に付けていた。
「梅見月よ、彼の子らをもエデンの住人と判断したか」
 梅見月とは二月の異名、二月守である翠のことを伯爵はそう呼ぶ。
「エデンに降り立てば、皆エデンの子どもさ。外でどうやって子どもが育つのか俺は知らないけど、エデンで生きるすべは教えられる」
「それも九代目の命だと」
 九代目十二月守は、翠の卵子提供者だった。母親だと言わないのは、そうなる確執があったからだ。
「あの人は優しい上に強かった。零れ落ちるものも皆拾うだけの力があった。あの人だったらそうしただろうことを、俺はしただけだよ、伯爵」
「それで、今回の依頼の御代だけれど、後で請求書を送るようにするわね。言い値で良いって言うものだから、リイザさんがしっかり請求するつもりでいるわ」
「相手方も潰して呉れた故、多少は目を瞑ろう。其方も随分煤けて居る、洗浄・コーティングは此処でもできる故、見苦しゅうないようにするが良い」
「あら、一戦交えてそのまま来たのよ、少し綻んでいる位大目に見て頂戴な」
 血に塗れたままでカウチに座っているのだから大概である。幸いなことに被った血は乾いている。カウチのクリーニング代など出す気は更々なかった。
 もっとも、端末機を変えて来れば良かっただけの話ではある。会話も戦闘もすべてのデータがチップに保管され、そのチップさえ入れ替えれば記録はそのままに新しい端末が利用できるのだ。
 凄惨な状態に似合わぬおっとりさで微笑むマリアに、リドルがとうとう噛み付いた。
「口を開けば金銭勘定等と、随分庶民的感覚をお持ちですね。天下の情報屋が聞いて呆れます」
「お人形風情に呆れられても困るわ。わきまえるのはわたし?それともあなた?」
「人形同士で争うでない、見苦しい」
「伯爵、マリアを人形扱いするなよ」
「人の形(なり)をしたモノだ、人形で合うておろうが」
 ふんぞり返って偉そうに告げる。また、それが様になっている。
「それじゃ、意図的に作り出された俺たち守護者も、人の形をした人形か?」
「そもそも人の姿は目指して居らぬ。人外の化け物よ」
 300年を軽く越えて生きるモノに化け物扱いされたくはない。
「……ていうかさ、水掛け論になるから、とりあえず誰も人間じゃないってことで手を打っとかない?」
「我は人間ぞ」
「生まれだけはね」
 誰も否やの声を上げはしない。リドルとて、伯爵をただの人とは思っていない。そういう辺りがプログラムという名の教育を施す伯爵の楽しみでもあった。
「ブローカーの絶命とチップの破壊は確認したし、これがその証明用の戦闘中のアイ・カメラの映像全部。子どもは俺が2区の児童保護施設へ引き取った。じゃ、一応報告終わりってことで。帰ろうか、マリア」
 アイ・カメラの映像など、本当は必要としない。通信用にオンラインだった人形達すべての視認データの同時中継ができる程度の設備がこの部屋にある。一応形だけはね、とスイは机の上にチップを置いた。
「エーダによろしく。――全部見てるだろうけど」
 それがエデンの核だった。
 翠の訪れはいつも静かなものだった。リイザのように噛み付きはしないし、ライザのように皮肉を塗した言葉を並べることもない。投薬されてから永くを生きるようになっても、基本、翠は確かに守護者だった。
 女史のように、付かず離れず、永い時を共にすることになるのだろう。伯爵はくつくつと笑った。
「真逆、守護者が望んだ形になる前に、我とともに時を刻むものが現れようとはの」
 望んだ形。十一代目にしてようやく現れた翼持つ天使の姿。細胞を調べた限りでは、それまでの守護者とは全く異なり、永く生きるだろうとの結果が出ている。問題は、何人が生き残るかだ。十数名を数えた守護者の数は、減少に転じている。研究者達の望んだ姿の、いわば変異した守護者は、性別を持たない。子を望めない。そして、クローニングもできなかった。
 数の減った守護者達を支えるのはエーダを中心とした生体コンピュータだった。十代目十二月守が月へと「逃がした」数名を除き、すべてが生体コンピュータ群としてエーダを支えている。
 愛しい妹を守るためには、守護者達も必要不可欠。狂わんばかりの愛情は、他の何にも向けられなかった。エーダがエデンの核である限り、伯爵はエデンを守り続けるだろう。
 それこそが、エーダの望みでもあった。
「晴れて狂者の仲間入りってことだ」
 翠は、伯爵を哀れんでいた。エデンでは強いといわれている伯爵も、世界に比すれば小さな存在だ。愛しいエーダを守るためだけに、強い振りもしなくてはならない。
 すでに本来の姿ではないのだろう。伯爵と呼ばれるようになってからは。
 女史もとうに人間であることを捨てている。リイザやライザもまた人であろうとはしていない。
「其方も我を狂うて居ると言うか」
「狂わなくちゃ、やってられないってことさ」
「言えば、其方の生も幼き頃より狂うたな」
「あの時狂わなかったら、真っ当な守護者として今頃生体コンピュータの一部だよ。どっちがマシかは知らないけど」
 生きていれば、辛いことも楽しいこともある。できることもある。
 その「できること」を為すために生きているのだと言い聞かせながら、日々を送るしかない。もとより、狂っているのだから。

 翠たちが帰った後、ふたたび伯爵はカウチに寝そべっていた。
「リドルよ、覚えておくが良い。あれらは優しすぎるが、我らが作ろうとしたはエデンを守る厳しき生き物。其方が困ることがあらば、彼れを頼れ。其の時、既に守護者は厳しきものになっておろう故」
 エーダにもそう伝えるが良い、と夢現に呟く。まるで「その時」には既に自分がいないかのように。

 リドルは答える言葉を持っていなかった。伯爵がいない世界など、彼にはないものだったからだ。
 困ります。そうは言えなかった。主のまどろみを妨げたくはなかった。リドルはコンピュータにコードを繋ぎ、しっかりと伯爵の言葉を記憶させた。
 そうすることが、義務であるかのように。




終。
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