--

--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告:  トラックバック(-)  コメント(-) 

    2010

10.15

遊戯4

 荷はリイザが指摘したとおりに、子どもばかりだった。粗末な身なりはしているが、衰弱している様子は無い。何のために連れてこられたかは定かではないが、少なくとも機械化はされていないようで、一人でユーフォリアに放り出されたら生きてはいけないだろう。
 5、6歳の幼子から、上は12、3歳だろうか。全部で25人。埠頭には接岸に必要最低限の灯りしかなかったが、リイザや人形達にはそれで充分だった。
『行キマショウ』
 言葉を発する必要は無かった。無線でオンラインを保ち会話する。人の多い場所ではノイズが多いこの方法は、閑散としたこの場所ではうってつけである。
 まず動いたのは、ふわふわ緑のリイザである。綿菓子のような頭は、はっきりとこの場所にそぐわなく見えた。
「人のシマ、荒らしてんじゃないよ」
 すぐに、大口径の銃口がリイザに向けられた。発射までの時間も短い。それらの銃弾を避けるでもなく突っ込んでいく。当たりそうなものはすべてワイヤーソーで叩き落す。目指すは、船から降りた四人の大人。
 がつがつという足音は二人分、けれど男達からはリイザしか見えない。小柄なリイザに隠れるようにしてそのすぐ後ろをレジーナが走っていた。
「何だこいつ、馬鹿か」
 戦車を相手にできる戦争屋である。常識的に考えて突っ込んでいくのは頭のネジが飛んだとしか思えない。
 男達は弾幕が切れないように交替でライフルをサブマシンガンに持ち替えていく。それでもリイザの足は止まらない。むしろ速度を増す。その程度の弾では、リイザの鋼鉄の身体に何ら影響は無かった。人工皮膚がはがれる程度である。
 マガジンをひとつ使い切る前に、一人目が倒れた。ワイヤーソーで足首を切断し立てなくした上で次の獲物に取り掛かる。
「何が起ったんだ!」
 距離にして10メートル程度、豪腕と聞いていた商談相手が襲撃されている。そこまでは分かった。が、それ以上を考える前に、鮮血が散った。
 リイザの後ろから離れたレジーナが、真っ赤な塊になって一人目を襲ったのだ。狙うは首筋、一点のみ。超振動ブレードのコンバットナイフが的確に弱点を狙う。
「マッタク、早過ギマシテヨ」
 それこそ全く感情のこもらない声で、セミラミスが言う。ちょうど4台目のセダンに爆弾を仕掛けたところである。
「引き上げるぞ!」
 難を察した島側の人間がばたばたと車の方へ戻ってきた。だが、そこにも悪魔がいた。
 セミラミスより手際よく爆弾を仕掛けた天照である。
 漆黒の髪を結い上げ、主とお揃いの赤い房のついた青龍偃月刀を構え、にこりと微笑んだ。
「引き上げさせるわけにはいかんのだ」
 くるりと青龍偃月刀を回すと、一人目の胴が真二つに割かれた。逃げようとしていた男達の足が止まる。何が起ったのか理解ができているわけではなかったが、そこに恐怖があるということだけは理解した。
 数人がわあああああ、と叫び声を上げながら、アサルトライフルを撃ちまくった。敵も見方も無い撃ち様だった。人工皮膚はコーティングしなおせばいい。人形達はライフルなど恐れていなかった。
「煩いわね」
 船から戻ったマリアが一人の後ろからバヨネットで後頭部を突いた。が、ちょうど口から剣先が突き出た格好になってうまく引き抜けない。重量級の男の身体を足蹴にして銃剣を引き抜いた。
「加勢するわ。あっちは予定通りリイザさんに任せましょう」
 男達は前をセミラミスと天照、後ろをレジーナとマリアに挟撃され、進退窮まった。すでに人数は三人減っている。
『先ズハ退路ヲ絶チマショウ』
 セミラミスはそう言って、四つの遠隔ボタンをひとつずつ押していった。順に巨大な音と光と炎と黒煙が上がる。運転手諸共、セダンが爆炎に消えた。
『了解』
『えぇ』
 天照とマリアがそれぞれ持っていたボタンを押す。残るワゴンと接岸していた船が爆音を上げた。
 辺りが急に明るくなった。
 子供達はひとかたまりになって怯え、身動きができなくなっていた。リイザがワイヤーソーで飛ばした男の頭が目の前に転がると、幼い子らは声を上げて泣き出した。
「泣く度胸はあるのね」
 血を浴びたマリアが、凄艶に笑う。
「一応ハ外デ生キテキタノデショウカラ」
 使い終わったボタンを放り投げ、セミラミスはアサルトライフルを構えた。
 本来セミラミスは荒事専門の人形ではない。だからできるだけ低反動の武器を使う必要があった。また、接近戦も基本的な動きしかできない。怪我を気にしなくて良いだけスイよりは強かったが、ガード・ドールである天照やレジーナとは比べ物にならない。
 それでも、初代デュークが足を負傷してからは彼がどこにいても生き残れるよう、相応の改造が施されている。弱くはない。
「貴様ら、何者だ?」
 炎に照らされ辺りが見えるようになったところで、リーダー格と見られる男が聞いた。思った以上に落ち着いた深い声だった。
「楽園の猫と情報屋スイですわ、ミスタ」
「猫どもとスイだと…?」
「依頼ガアリ、参リマシタノ。少シ派手ニ動キ過ギタヨウデスワネ」
 マリアが、血に濡れたバヨネットを男に向けた。
「殲滅が望み。故に死んでいただきますわ」
 ターンと軽い音がする。当たったのは腹部、防弾装甲に守られて怪我は無い。それを合図とするように、乱戦が始まった。
「死ぬために来たんじゃねぇ!」
 喚きながら、その場を離れようとした男がいた。めちゃくちゃにサブマシンガンを撃ちながら、一方だけ開けた場所に向かって走り出した。
 瞬間、どさりと仰向けに倒れた。
「殲滅が望みだと、伝えたはずですが」
 透明な少年の声だった。短銃を構え、見事に眉間を撃ち抜いたのは、他でもない、リドルである。
「立っているものは親でも使えというでしょう」
 ころころとマリアが笑う。
 ドン、と鈍い音がした。リイザがグレネード・ランチャーを至近距離で撃ったのだ。無茶苦茶である。反動で地面で一回転し、相手の胴に風穴が開いたのを確認してから4人目に取り掛かる。
「頭蓋骨を強化していなくて良かったな」
「失敗したら目玉を撃ち抜きますから貴女などに心配していただかなくても結構です」
 レジーナの軽口に、上から目線でリドルが応じる。
 人間にとって人形は厄介な相手だった。的が小さい上、当たってもダメージが少ない。反動に強く、速度を相殺しない。小さいから余計にそう思えるのかもしれないが、動きも早い。
 爆発の炎で視界が良くなった第三埠頭は、煉獄のようだった。
「これで最後よ!」
 戦車砲にも耐える戦争屋の頸部をワイヤーソーで絞め、切り落としてから、リイザは片腕を上げた。
 人工皮膚は剥がれ落ち、鮮やかな緑だった衣装は煤と油に塗れている。ただ、爛々と光る猫の瞳は、楽しそうだった。
「こちらも最後だ」
 返り血で赤く濡れたラバースーツが、炎でてらてらと光る。青龍偃月刀の刃も血に塗れている。最後の一人の首を串刺しにして放り上げ、振り落とす。力技だった。
「お見事でした。確かに、契約の履行を確認しました」
 千切れ飛んだ腕や脳漿が撒き散らされた中、涼しい顔をして全く無傷のリドルは威丈高に言った。
「残るは子ども達だけれど」
 マリアが、煤だらけのまま思案顔になる。
「スイがいれば保護して2区辺りの児童養護施設に入れろって言うでしょうねぇ」
 まだ炎は高く上がっている。爆発が起きてからそう時間は経っていない。一部始終を見ていた子ども達は、恐怖で何も言えないでいる。何かを言えば殺されるかも知れないという恐怖は、リイザにも分かった。
「ほっとけば明日にも死体だわね」
 聞こえるようにわざと言う。
「リドル、伯爵は何て?」
「先にも言ったとおり、裁量に任せるということですが、異存でも?」
「そーですかそーですか。あー、アタシ、めんどいのパス。いち抜けた」
 頭の後ろで腕を組み、さっさと山手へ引き上げている。その後ろをついて行くように、天照も歩き出した。
「特に見目が良いという訳ではない、蔡氏でも使わんぞ」
「幼子の細腕と拙い頭に情報屋の末端を任せるわけにもいかないだろう、セミラミス」
「第一ニ此レダケノ人数ヲ運ブ術ガアリマセンワ」
 小さくなっている子どもを目の前にして二体の人形とマリアが腕を組んでいるところへ、ジゼルが駆け寄ってきた。
「……見つけた!」
 人ならば、息せき切ってという表現が正しい。けれど人形である彼女は、ほんの少しだけ人間らしく上気した雀斑のある頬をにっこりと笑みの形へと変えた。
「スイが目を覚ましたのよ、こっちへ来るって言うから案内してきたの!」
 ジゼルはガード・ドールでは無い。案内と言っても、本当に道案内だけだっただろう。トパーズの瞳をキラキラさせて、子犬ならば引き千切れんばかりに尻尾を振っているだろう姿はかわいらしかったが、この場にはそぐわなかった。
「今そこでリイザにリニア・トラックを頼んだんだよ。殺さないでいてくれて助かった、ありがとう」
 幾分顔色は悪いが、脈拍は安定し、心肺機能にも問題はない。即座に見て取ったマリアは、ふんわりと微笑んで返した。
「あなたが来なかったら放っておこうと思っていたのよ、積荷は違ったと報告して」
「そんなことだろうと思った。あぁ、怖がらなくて良いよ、外より住みやすい場所もエデンにはある。――ようこそ、夢の島、人工島エデンへ」
 その時ようやく子ども達は自分達が助かったのだと分かった。
 スイの周りに集まると、盛大な声で泣いたのだった。



 後日。
 リイザはリドルさながらのサラサラの銀の髪を長く伸ばし、緋色の猫の目の瞳孔を縦にしてスイに後ろから抱きついていた。サイケデリックな花柄のミニ・ワンピースが眩しい。
「ね、もう怪我ダイジョブなの?」
「元々たいした怪我じゃないさ、それよりみんなはどうだったんだ? すごい大立ち回りをしたそうだけど」
「アタシは素体の総入れ替え、後はみんな全身クリーニングと人工皮膚の張替え程度よ。セラってばそれで良いって言うんだもん。どうせ伯爵のお金なんだから、パーッと使っちゃって良いのにさー」
 ははは、とスイが笑う。
「セミラミスは倹約家だからな」
「もー、セラってばほんとに吃驚させるんだから。良い、スイ、他の何を犠牲にしても怪我なんてしちゃダメよ。他は替えが効いてもスイの代わりはないんだから」
 不老と不死は違うものなのだ。厳密に言えば、守護者は死にはしないが、長く生きるのともわけが違う。死んでまで生体コンピュータとして使われるなど、リイザは真っ平ごめんだった。拾って育てたスイをそのように使われるのも。
 ユーフォリアは安住の地ではない。リイザから見ればものすごく弱いスイはユーフォリアにいるべきではないと考えることもある。それでも一緒にいてくれるのが嬉しくて、つい甘えてしまうのだ。
 守護者にしては強いスイ。
 けれど人より弱いスイ。
 こんなに守るべきと思える存在が他にあるだろうか。
 粗野な自分は、上品な区にはいられない。自覚はしている。ライザのように猫の皮を被るのがうまければ、或いはとも思うが、リイザの爪はよく研がれすぎていた。うっかり噛み付いたり引掻いたり、粗相に事欠かない。
 そんな自分でも許してくれるスイが大好きだった。
 だから、守りたい。
 誰からも、何からも。

 それが自分のレゾン・デートルだと、リイザは強く思っていた。




スポンサーサイト

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

Next |  Back

comments

コメントの投稿











 管理者にだけ表示を許可
trackback
この記事のトラックバックURL

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。