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    2010

10.15

遊戯1

 ふわふわの綿菓子のようなライトグリーンの髪。日に焼けていない、すべらかな人工皮膚。カールした長い睫毛に、ぱっちりした翡翠の猫の瞳。薄紅の頬とたっぷりグロスを乗せた蠱惑的な唇。
少女の華奢な身体は、見た目に反した鋼鉄製。ライムグリーンのラインストーンを配した長い付け爪。
 淡いグリーンのミニスカートワンピースから伸びる細すぎない足には、鉄板入りの高いヒールのブーツを履いている。
 いくらでも形容詞は出てくる。ぱっと人目を引く美少女だ。
 けれど誰も声をかけない。かけてはならない雰囲気を纏っている。小柄な少女なのだが、小柄には見えない。存在感が大きい。
 小さなビルの隅にある鉄の格子とその奥の鉄の扉を乱暴に開けて、かつかつと靴音高らかに階段を上る。階段を上がりきったところにある木製の扉の古風な真鍮のドアノブを回し、部屋に入った。プレートも何もない、小さな構えの事務所だ。部屋の中央にあるマホガニー材に似せた机についているのは、明らかに人のサイズではありえない人形だった。
 白磁の肌、銀色の長い髪、深紅の瞳。人の2/3程の大きさの人形は、アンティークなドレスを身に着けていた。上品な絹の生地に、たっぷりとしたレース。机の上には真鍮製のランプもあって、そこだけ時代が違ったようにも見える。
「イラッシャイマセ」
 微笑むように、プログラムされている。
「何カゴ用デショウカ?」
「アタシよ。何カ、じゃないわよ、スイが怪我したから来いっていうから飛んで来たのに」
 名前を言わずとも、以前と姿が変わっていようとも、分かる。分かれと人形は言われている。行動パターンで、特定はできるだろう。その程度のプログラムを組むのは、人形師として名を馳せたデュークにとって簡単なことだった。だから、デュークの人形を欲しいというものは後を絶たない。
 この人形、セミラミスは、初代デュークの片腕であり、二代目デュークを短期間襲名していた。今は、人とほぼ変わらない大きさの、デュークの最後の人形が、三代目を名乗っている。
「すいデシタラ奥ノ部屋デスワ。りいざサンガ入ラレルト目ヲ覚マシテシマイマスカラ、起キテクル迄、此方デオ待チクダサイナ」
 今は情報屋スイの手伝いをしている。
「何があったのか、聞いてる?」
「運ト間ノ悪イ事ニ、流レ弾ガ当タッタソウデスノ。守護者ノ身体ハ強クアリマセンカラ、落チ着ク迄眠ラセテオコウトイウノガまりあノ意思デスワ」
「流れ弾ぁ?まったくドンくさい。らしくない。で、その場は収まってんの?収まってないならアタシが皆殺しにしてあげる」
「三ツ向コウノ通リデスッテ。ゆーふぉりあハ矢張リ物騒デスワネ」
 作り物めいた笑顔でセミラミスは答える。初代デュークが「最も人形らしい」と評する彼女は、喋り方も人に比べて少しぎこちない。明らかに作り物だと分かる。それが人形師デュークのお気に入りだった。
 人形師と言えど、人間用の素体を作らないわけではない。実際リイザもライザもマリアも世話になっている。けれどデュークは自分を機械化しようとは思っていなかった。長く生きるつもりはないよと笑っていた。ほんの僅か勝手が違うだけで、最高の人形は作れないのだ、と。
「ゆーふぉりあニハ、ワタクシヲ知ル方ガ多クテ助カリマスワ。攫ワレル危険モばらサレル危険モ少ナイノデスモノ」
 それでも傷は絶えない。セミラミスは何度もコーティングを繰り返している。
「で、なんでアタシを呼んだのよ」
「すいガ厄介事ニ首ヲ突ッ込ンダノデスワ。伯爵カラノ要請ガアッタカラナノデスケレド」
 伯爵とは、この人工島エデンを作った研究者のうちの一人だ。正確には、できて三百年を生き抜いた、生き残り。
 人工島の他の区と切り離された孤島26区、ユーフォリアは、実質彼が支配しているようなものだった。
 その伯爵が、何を言うのか。
「やっぱりスイが起きてこなくちゃダメね。話を聞いたのはスイだけなの?」
「まりあハ同席シテイタソウデスケレド。……呼ビマショウカ?」
「お願い」
 セミラミスは、左手首の内側の金属プレートにコードを繋いだ。コードを通してマリアに呼びかける格好だ。マリアも、部屋の中でコードを繋いでいるはずだった。オンライン。それが彼女達機械の最も簡単な会話法だった。
 程なくして、上品そうな女性が奥から出てきた。ブルネットをアップにして、西暦の19世紀から20世紀初頭のツーピースを着ている。セミラミスに負けじと時代衣装を着ているようだった。
「いらっしゃい、リイザさん」
 ふわりと微笑むのが様になる。
「何でマリアがいてスイが怪我をするのよ」
 微笑むマリアと対照的に、リイザは不機嫌だった。マリアは微笑むようになっている。それを知っていても、リイザの口から皮肉が漏れる。
「主人が怪我したってのに、よくへらへらしてられるわね」
「あらだって、余計な心配させてはいけないじゃない?スイは怪我には強い子よ。あたったのは腕だったし、少し発熱はあるけれど、目くじら立てて怒るほどの怪我じゃないのよ」
 それに、と続ける。
「私はあの子にとって育て親で共犯者であって、主従関係じゃないわ。あなたがよく知っているように」
「そうだったわね。あんなに争いごとに強い子、守護者じゃ長を超えるんじゃなぁい?」
 守護者は脆弱で繊細。それが、守護者を知るものの一般的な知識だった。
「で、マリア。伯爵の呼び出しってなんだったの。もちろんアタシにも知る権利、あるわよね」
「あなたの力が借りたくて、呼んだのよ。荒事はスイの専門じゃないもの」
 緻密な作業は必要ではないらしい。もしそうならば、片割れのライザが呼ばれている。
 伯爵は、同僚だった女史(リイザは「ママ」と呼んでいる)の養い子を、幾分持て余しているようだった。ユーフォリアで自由に彼女らが生きているのを、邪魔したことはない。けれど時々、直接には言わないけれど、スイをだしにしてリイザやライザをうまく使う。さすがエデンの化け物、とリイザは言って憚らない。
 実際のところ、誰がいてもいなくても、伯爵は26区を治められる。26区で絶対的な力のヒエラルキーの頂点にいるのだ。けれどたまに、ちょっかいを出したくなる。それにちょうどいいのが、スイであり、リイザやライザであっただけのこと。
 結局いつも踊らされるのだ。それでもいいとリイザは思っている。遊ばれているのではない、知っていて遊んでやるのだ。
「耄碌されちゃかなわないから遊んであげるわ。今度はどんなゲーム?」
「暴れるだけ暴れていいというお墨付よ。先日26区に進出してきた人買いブローカーの殲滅。エデンの外からの侵入者よ、徹底的に叩いてほしいというのが伯爵に言われた言葉」
「人買い、ね。守護者が聞いたら真っ青になって震えそうな言葉だわね。奴隷って言うより臓器売買のほうが需要がありそう」
 少女の姿をした化け物が言う。
「26区がどんな場所か分かってて来た人たちらしいから、おそらく他の区への進入できるパイプがあるはずよ。それも併せて潰さないとね」
 女性の姿をした機械が言う。
「踏み込んだ先で腑分けされてたらスイの精神衛生に悪いから、アタシたちだけでやっちゃおっか」
「あら、スイはバラバラ死体には慣れてるわよ、一応お医者様なんだから」
 それに、26区を拠点にする楽園の猫の一員だ。死体程度で恐れる神経の持ち合わせはない。
「でも悲しむわ。犠牲になるのは多くは子どもでしょ。そんなのが重なって少しずつ狂っていくのを、アタシは止めなくちゃならない」
 スイだとて、守護者。エデンに住まうものを守りたいというレゾン・デートルの上に、かつて母親だった人の「守護者も人間も守るもの」という不文律が乗っかっている。
「寝てるんだったらちょうど良いわ、場所、分かってるんでしょ、乗り込みましょ」
 何の気負いもなく、リイザは言った。
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