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    2010

08.26

自由になる為に生まれた.1.

 その日ラグドールは、ピンクに染めた長い髪をお下げにして、上機嫌で帰り道についていた。染めたばかりの髪の色が気に入っていた。
 彼女らは猫共、と蔑称されることが多い。敢えて縦に長い瞳孔を好み、気分屋で気位が高い。ラグドールは姉妹だと言われる仲間のリンクスよりも衝動的で、少女のように潔癖で。
 隣を歩くアルビノ、ヘテロクロミアの佳人もまた同じ仲間で、オッドアイと呼ばれる。その腕に自分の腕を絡めながら恋人のように接する。オッドアイは女性であるが――本人も女性だと言い張るが、小柄な姿でいることの多いラグドールと違って、長身でぱっと見は性別が分からない。
「ねえ見て見て。良い色でしょ」
 交差点で小さくクラクションを鳴らした車に駆け寄った。ステージの上でそうするようにくるりと回ると、ふわりとミニスカートがひらめいた。車の中からオリエンタルな美女が半身を乗り出し、お下げをつまんだ。
「派手だな」
「あんたが地味なのよ。金髪か黒髪か、どっちかしかないなんて楽しくないじゃない」
 ラグドールはぷいと唇を尖らせる。リンクスが車の中に身を戻すと、後部座席のドアが開かれた。
「暑いでしょう、早くお入りなさいな」
 柔らかなトーンの女声が、運転席から上がる。猫共、と呼ばれる最後の一人、メインクーンだ。合計4人が――3人と一体が、楽園の猫と呼ばれる仕事屋集団だった。栗色の髪と焦げ茶の虹彩のメインクーンが一番外見上では人間らしい「動く機械」だ。
 二人が車に乗り込んだところで、オッドアイが切り出す。
「ターゲットはハイワンという華僑。蔡氏を裏切って逃走した男だ」
「何をしたのかしら」
 蔡氏とは、4人と馴染みの、世界で五本の指に入る商人で、当主は特に蔡主と呼ばれ、絶大な力を誇る。――そう、東海の小島のエデンでも知らぬ者はない。
「まあ聞けよ。当代蔡主お気に入りのSPだったんだが、俺達のデータを持ってエデンに入ったそうだ。データは5カラットのダイアモンドに擬装して猫の首飾りにしてあったんだけど……」
「あら、まあ」
「何の冗談だ」
「んなもんどうやって気付くのよ」
 三者三様の応えに、オッドアイは苦笑した。
「すぐに読み取りはできないって話だけど」
 途端、リンクスが顔を顰める。
「私達の何を知られる」
「エンが持ってるわたしたちのデータなら、困ったわね、ものすごくプライヴェートなことまで知られてしまいそうね」
 やんわりとメインクーンが言う。当代蔡主エンは、彼女が産まれる前からの知己である。ラグドールは嫌あね、と鼻にかかった声を上げた。
「ハイワンならアタシ知ってる。アイツどっかに持ち込むのと引き換えにこっちと交渉する気じゃないかなぁ」
「交渉してくれれば良いけれど」
 窓口係のメインクーンは溜息をついた。
「エンはDNAレベルの情報を持っている。猫なんぞの首に下げるとはな」
「らしいといえばらしいけどね。ま、蔡氏には直接関係ないし。俺達で何とかしろってのがエンからのお願い」
「そゆの、お願いじゃなくって強制っていうンだってばー。てゆかアタシが髪染めてる間にそんなコト話してたのっ?」
 車内がラグドールのかしましい声に染まる。
 四人にはそれぞれ、親しい人にしか呼ばせない特別な名前があった。ラグドールの話はそれに及ぶ。
「アタシ、エンたち蔡主は別にしてもこのメンバー以外にリイザって呼ばれるの、ヤだ。アタシが呼ぶ名前で、みんなを呼んでほしくもない!」
 神妙にメインクーンが相槌を打った。
「あら、意見が合うわね。わたしも嫌よ」
 エンからの「お願い」は、あらぬ方向へ進む。
「要はハイワンを打ち殺してダイヤを奪い返せば良いのか」
「いや、データの保護が先だろう」
 唯一、本名を仕事にも使っているオッドアイがリンクスを制した。
「ハイワンを殺すのはその後が良いね」
 結局殺すことについては誰も異を唱えなかった。
「情報屋に網を張っておきましょう、ね、スイ」
「それは確かに俺達の仕事だな、マリア」
 スイと呼ばれたオッドアイはマリア――メインクーンにウィンクして返す。
「じゃ、アタシとライザは朗報待ってることにすれば良いわけ?」
 リイザは縦の瞳孔を細め、小首を傾げる。
「焦れる。早く探し出して情報屋へ向かうようせっつけ」
 リンクス――ライザは瞳以外は清楚な美人に見えるが、たいそう剣呑な雰囲気でスイを急かした。
 ふわりと微笑んだマリアが、場を締めくくる。
「任せて頂戴」
 一同、見た目に反して過激で危険なのは、彼女らを「猫」と呼ぶすべての者が承知の事実だった。また、彼女らもどう思われているか承知でその呼び名を許していた。

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