--

--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告:  トラックバック(-)  コメント(-) 

    2010

08.27

自由になる為に生まれた.4.


 エンがハイワンの座っていたのと同じ場所に腰掛けるのを待って、スイは言った。
「ずいぶん早かったね」
 リイザとライザよりも早く、エンはここまで駆けつけた。自身でもすぐにエデンへ入り自分の元SPを探していたらしいが、それにしても早い。スイが彼を見つけたのはほぼ偶然だというに。
「運が良かったのだ」
 刀に似合わぬ笑顔で言う。
「しかしスイ、これは何だ?」
 血に濡れた紙片は、くしゃくしゃになっていた。確かにスイがハイワンに手渡したエデン中央銀行の小切手だった。
「どうした、仏心を出したか」
「殺すしかなかったと俺も思うんだけどね。お前を裏切って、俺たちが許せない行動をとった」
 それでも、と思うのは。
「やっぱり俺は甘いなぁ」
「仕方ない、それが守護者だ」
 エンにしては優しい言い様に、スイは頷いて返した。
「良くご存知」
「残念ね、わたし達の獲物ではなかったの」
 ハイワンがいる時には黙していたマリアが、至極残念そうな声を上げた。作り物の声が、ぜんぜん機械のようには聞こえない。
「飼い主はエンだからな。で、ふたりは?」
「階段を上がる足音が聞こえるわ」
 さも耳で聞いている風に言う。
「それじゃ、みんなでこれをどうするか考えるかな」
 スイが示した先にあったのは、大粒の人工ダイヤ。エンが飼い猫のために特注で作らせた、そしてほんのジョークで楽園の猫たちのデータを乗せた5カラットの大物。
「キティの装飾品にでもすると良い。雪梅には新しい飾りを買ってやった」
「チョーカーにでもするかな。ちょっと大きすぎるか」
 左手でつまみ上げ、ガラス越しの陽光にかざした。
 きらきらと光が渦巻く。
「これのどこにどうやってデータが入ってるんだかね」

「そんなのどーだっていいわよぅ!」
 ばぁん、と壁が叩かれた。……力は加減したのだ、本気で叩けば壁など崩れる。
「――キティ」
「アタシが殺してやろうと思ってたのに。エンの馬鹿、なんだって先に殺しちゃうのよっ」
 頬を膨らませて、肩を怒らせて。早すぎるわ、と詰る。ずかずかとエンの目の前に立ち、他の誰にも許さない行為に出た。
 ……むに、と頬をつねったのだ。エンの(年齢の割には)柔らかな頬が、リイザの華奢な指先に、神妙に抓まれている。
 怒っているという割には、行為が手緩い。
「リイザ、そろそろやめておけ」
「しかし今回の失態はほとんどエンの所為だよ、スイ。リイザの言うことに一分ある」
 リンクスにしてはやんわりと窘める。皆、尖らせた爪を立てないように、じゃれ合っているだけのようだ。
「……爪が割れちゃうからやめておいてあげる」
 無茶苦茶な理由をつけて、綺麗に塗られた爪を大事そうに戻した。
「それなりに痛かったぞ、キティ」
 エンは『ラグドール』よりは一般に知られた名前で、リイザを呼ぶ。
「痛くしたんだもの、とーぜんでしょ」
 腕を組み、口を尖らせる。いつものことだが、いちいち仕草がオーバーだ。
「それにしてもね」
 マリアが、騒ぎに声だけで参加する。
「気を付けなければならないのは、『わたし達』と『蔡主』が繋がっていると目を付けた誰かがいるって事よ。ねぇ、誰か心当たりはあって?」
 ハイハイとリイザが手を上げた。
「アタシ遊びに行ったわ、蔡氏の島に」
「私達の姿は誰にも知られていないと思うが?」
 ライザの指摘に、あっそうか、と手を打つ。洋服のようにとまではいかないが、リイザとライザはその姿をよく変える。金は掛かるが、そうした技術がエデンにはあった。また、オンライン上ではどのような変装も可能だし、マリアに至っては端末さえあれば複数が同時に存在することすらできる。
 変装は趣味だと言い切るリイザは、頻繁に身体を取り替えている。
「わたしも調べてみるけれど、エンにもお願いね、少し気に掛けておいて頂戴な」
「了解した。身辺整理をしてみよう」
 マリアは微笑んだようだった。 
 リイザが、スイの手から煌めくダイヤを取り上げた。
「ね、スイ、これ色をつけて。黒のベルベットのリボンでチョーカーね」
 確かにきれいね、と今度はマリアのマニピュレータが伸びる。
「ねぇ、みんなでこれとお揃いを作ってカムフラージュしちゃうのはどうかしら」
 結構な金がかかるその提案を「面白いかもしれない」というライザに、ダイヤは渡った。
「少々派手な気もするが…」
 まわってスイの手に戻る。
「ンなもん、俺はつけないよ」
 エンが言う。
「ではそれを砕き、身に着けやすいよう小さくしてやろう。データなんぞ、必要はないだろう?」
 むしろデータは、邪魔だった。そんなモノがなくても、仲は壊れたりはしない。では何故そんなものが存在するのか。――昔、何かがあったとだけ、言える。
「データなんていらないわ、だってそれってまるで首輪じゃない」
 猫の瞳を煌めかせ、リイザが言う。
「アタシたちは自由になる為に生まれたのよ」
 それを束縛するものなど必要ない、と。
「首輪?チョーカーが欲しいとねだったのはどこの誰だ」
 ライザが笑う。
 猫とは元来マイペースな生き物だ。そう呼ばれるということは、それなりに生きてきたということ。
「生き方を縛られる情報なんて、確かにぞっとするな」
 やはり取り返して正解だったのだ、とスイは自分の気持ちに区切りをつけた。たとえ命を奪っても。
「アタシたちは自由だわ、誰からも、何からも」
 猫だと揶揄して言われようと。代償を支払おうと。
 ――譲れない。負けられない。

 そう、確かに自分達の手で、自由を勝ち取っているのだ。



終。
スポンサーサイト

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2010

08.26

自由になる為に生まれた.3.

 リニアトラックに揺られ、幾らか歩いてたどり着いた建物の一階はコンビニエンスストアだった。脇にある古びた鉄の扉が、情報屋に示された場所だった。
 扉を開く重苦しい音は、喧騒に紛れた。コンビニの前にたむろした若者達が顔を向けてきたが、すぐに無関心なようにお喋りを再開した。
「避けたはずじゃなかったのか」
 自問した。
 何故、ダイヤの話がもう伝わっているのだ。幸い、姿形は伝わっていないけれど、このまま逃げることもできない。
 命に関わる大ごとを、しでかしてしまったのだ。
 開かれた鉄の扉の前で逡巡していると、人の影が差した。
「客かい?」
 見ると、白い髪に赤い瞳、長身で細身の性別不明が買い物袋を提げて立っていた。
 ――客か、と聞かれた。ならばこれが情報屋なのだろうと腹をくくった。
「相談がある。情報屋スイか?」
 ハイワンは、自分のそれより僅か低い位置にある、赤の隻眼を見た。片目が赤い情報屋、それがスイであるとメモには書かれていた。
「そう、運が良いね、たまたまこっちに寄ったんだ。いつも俺がいるわけじゃないから」
 落ち着いたアルトがハイワンを促した。
「情報屋に紹介されてきた」
「大抵のことはどういう形であれ解決するよ。ま、中に入れよ」
 友人のように、気さくに声をかける。先の情報屋もそうだったが、情報屋というものは皆そうなのか。
 足取り重く、階段を上がった。


 撒き餌をして4時間、エンよりも早くこの男を捕獲できたのは良いことだとスイは思っていた。
「宝石に保管されているデータを取り出せる技術者を探している」
 巨躯が二人掛けのソファの真ん中を占領している。ローテーブルを挟んで向かい側のソファの背に、スイは身体を預けていた。
「確実なのは、守護者お抱えの技術者に頼むこと。ちょっと手続きは面倒だし、闇で回ったものは扱えない」
 ちらりと男を見やる。
「海氏、だっけ、名前」
「ハイワンで結構」
「じゃ、ハイワン。そいつは流れ物だろう?」
 ハイワンは言葉を濁した。
「質問変更。俺が守護者だって、聞いてきた?」
 あくまでもライトに、スイは訊いた。慎重に言葉を選んで、ハイワンは返す。
「前の情報屋が言っていた……俺はエデン育ちだが、外で仕事を始めるまで、守護者の実在は信じていなかった」
「まぁ、妥当なところかな。『エデンの良心』ってのがある。そっちを頼る気はないか」
「それは蔡氏より強いか?」
「――蔡氏?」
 聞くと、知らないはずはないだろうという目で、見返された。
 開き直ってくれないものかな、とスイは思っていた。
「とある企業がこの情報を待っている。蔡氏に見つかる前に届けなければならない。そのためにはデータを洗い出しておく必要があるだろう」
 知っている、とは言えない。殺すつもりがあることも、言えない。
「『エデンの良心』はエデンにいる間は蔡氏より強くなければならない。あそこだって一企業だよ。だけど蔡主は別だ。……それに、エデンの良心には罰則規定がない」
「蔡主は、強いか」
「難しいことを訊くね。守護者として答えてもいいかな」
「如何様にも」
 半ば、投げやりなのが見て取れる。スイは小さく笑ってしまった。
「そもそもエデンは蔡氏が半分作ったようなものだ。技術者も蔡氏の息のかかった者が多かった。エデンの良心は、それらの権力筋から住民を守るために、守護者が作ったエデン固有のローカルルールなんだ。だけど問題がひとつ。今の守護者の長と蔡主は、非常に仲が良い。蔡氏には無理でも、蔡主であればと守護者が開けて通すこともある」
 ハイワンは、息を呑んだ。やはりここに来たのは間違いだったか、と。
「参考までに聞くけど、何のデータなのか、知ってるかな」
「――楽園の猫のデータだと言っていた。詳しいことは、何も」
「そうか」
 思うことをすべて飲み込んで、スイは営業スマイルで告げた。
「生きたいなら、逃げろ。ダイヤは置いていくといい。処分してやろう」
「どういうことだ、情報は」
「楽園の猫と祭主が絡んでるなら、何を置いてもまず逃げるが鉄則だと思うよ」
「なぜダイヤだと知っている!」
 狼狽するハイワンの前で、スイはふぅ、とひとつ溜息をついた。
「やっぱりダイヤか。駄目だよ、大切なことを頼むときは全部吐いてくれなくちゃ。で、情報の中身だけど……」
 立ち上がり、ハイワンを見下ろす。
「エンが知っていることなら、俺も多分知っているよ」
 褐色の双眸が、スイを見上げた。
「蔡主とは、知己か」
 諦めたような声色だった。
「残念ながらと言うか、幸いにしてと言うか」
「情報屋に宝石の話を流したのは蔡主だったか……」
 呟くような声だった。
 ハイワンは立ち上がり、ポケットの中に突っ込みっぱなしだった手を引き上げた。握られているのは、大振りの磨かれたダイヤだ。
 無造作に、ことり、とテーブルに置いた。
 情報屋に話を流したのは、他でもないスイである。だが、無駄に知らせるよりは、知らないほうが幸せだろう。そうスイは判断した。
「俺は殺されるだろうか」
「逃がしたとあったら多分俺も半殺しだな」
 だからと言って、進んで差しだしはしない。それがエデンの良心だ。守護者の慈悲の心だけが、罪人をも助けたいと願うのだ。
「俺も守護者の端くれだけど、エンにも猫にも良心なんてものは通用しないんだ」
 俺にも、と付け加えかけ、やめた。これ以上何を背負わせるというのだろう。
「それでも俺に逃げろと?」
「そうだな、突き出せば早いのにね。ゆっくりしてると、すぐ捕まるよ」
 スイは、金額の書かれていない小切手を渡した。訝しげにハイワンは突き出されたそれを見た。
「ダイヤの代金だよ」
 使い方は分かるね、と、それまでダイヤが握り締めてられていた掌に、押し付けた。

 ハイワンは、また追い立てられるように部屋を去ることになった。正直、あてはないし、何をどうすれば良いかすぐに思いつかなかった。
 重たそうな音を上げる鉄の扉を出たとき、小柄な人の影が下を向く視線の先に現れた。
 するすると吸い込まれるように、影の持ち主を見ることになった。
 小さな身体に似合わぬ、赤い房のついた青龍偃月刀が、太陽を受けてきらきらと輝いている。
「ワン、私はおろかな主であったか?」
 澄んだ高い声だった。
 黒い長い髪を丁寧に結い上げ、旗袍を着込んでいる。
「……蔡主、」
「私はお前を気に入っていたのだぞ、しかし許すことはできない」
 エンは、ハイワンを見上げた。
「私は私だから、貴様を許さない」
 くるり、と赤い房が宙を舞った。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2010

08.26

自由になる為に生まれた.2.

 ハイワンは急いでいた。
 主人である蔡主のペットの首飾りに「大切なデータ」が保管してあることに気が付いたのは、2ヶ月ほど前だった。それが東方の人工島エデンでその名を知らぬものはない楽園の猫にとって大変なダメージを与えるものであると知ったのは、たまたま主人がその父親と会話しているのを小耳に挟んだためである。
 ――曰く、そろそろ彼女達のものであるデータを無防備に晒すのは如何なものか、と。
 ――返すに、雪梅(シュエメイ)を飼って以来誰も気付きはしていない、と。
 ハイワンは、急いでいた。自分は今蔡氏の商売上のライバルから引き抜きにあっていた。楽園の猫について、彼女らを思うままに動かせる情報を持ち出せば、相応の金を持って応じると言われたのは2日前だった。エンが気付くのが先か、ハイワンが情報を持ち出すのが先か。
 気付かれれば命はないだろうと思っていた。エンは東洋人にしても小柄で、当主としての魅力に溢れた人物だったが、その性格の苛烈さは代を継いでから殊に有名だった。特に、家族に対しての裏切りを、彼女は許さなかった。大振りの青龍偃月刀を振り回した武勇伝には事欠かない。その彼女に気に入られたのは、ハイワンにとっては僥倖であり、同時に大きなストレスにもなった。
 確かに、ハイワンは急いでいたが、間違いを犯した。
 ダイヤを奪った後すぐに届ければ、身の安全は或いは確保されたかもしれない。だが、真面目なハイワンは、データとして提出しなければならないのだと解釈してしまった。
 故に、ハイワンは急いでいた。事を知ったエンの手が及ぶ前にダイヤをデータ化しなければ命がないと思っていた。そして、エンと親しいという楽園の猫の手も逃れなければならない。
 蔡氏ではない彼がエンのSPになったのはこのエデンで、である。エデン出身の彼は、エデンの外をよく知らない。エンからは「私の身を守ることだけを考えていれば良い」とだけ言われ、蔡氏に雇われることになった。実際、エンの身を守る者たちは、あらゆるしがらみを断つ為にと蔡氏以外から選ばれていた。そしてお互いにお互いを知ることがないよう、エンに躾けられていた。
 エンの言葉は天の声だった。それなのに、叛いてしまった。
「急がなければ」
 金を手にするより先に、命を奪われてしまう。
 データを洗い出せる技術屋を探しに入った情報屋で、思わぬことを言われた。
「そんな商社より、でかい金額でこいつを買い取っるって奇矯なヤツがいる」というのだ。
 その話に乗りそうになり、ポケットの中の人工ダイヤを握りしめた。
「いや、待ってくれ。今は身の安全のほうが先だ」
 ハイワンはかぶりを振った。
「データなんてモンは拝んじまったら最後、身を滅ぼすことにしかならねぇ」情報屋は囁いた。
「何とか技術者を見つけてくれないか」
 それしか言える事はなかった。罠に決まっているのだ。もしかしてこの情報屋も、敵なのか。
「情報屋のスイに言いな、こんなでかいモン扱うような腕は俺にはねぇよ」
 その名は、かつてエデンにいたハイワンにも馴染みの名前だった。それはエデンの守護者であるらしい。
 守護者というからには、エデンに住まうものを守るのだと、まことしやかに言われていた。
「『エデンの良心』に触れるかもしれねぇ、オレには荷が重過ぎる」
「……何だそれは」
 急に小声になった情報屋に、ハイワンは問うた。
「でかい宝石を嗅いだらともかく手を引けって情報がオレ達の間に出回ってる。いいか、忠告するぜ、命に関わるが、殺すのはためらわれるって場合に適用されんのが『エデンの良心』だ。大きな情報屋なら何とかするんだろう、けどよ、オレは小さな個人営業の情報屋だ、大口を――それもとびきりの巨大店を紹介しなくちゃこっちも危ねぇ」
「そこでどうしてスイなんだ。わざわざ他を探したのに」
 スイを避けて、というニュアンスを含める。情報屋は手を振った。
「オレが知ってる限りで一番上等の情報屋だ。小さなことから大事まで面倒を見てくれるって話だ。商売敵なんかじゃねぇ、あそこは守護者直営だからな」
「待て、守護者ってのは実在するのか?」
 情報屋は、ハイワンを哀れむように見た。
 それからは済し崩しだった。
 迷ったのがいけなかった。情報屋は渋るハイワンの手に汚い文字で書きつけた小さな地図を握らせ、幾許かの金を懐から取り、追い出すように外へと誘導した。
 エデンの中でも安全で穏やかといわれた23区アイアンメイデンで育ったハイワンは、これまでほとんど挫折を知らずに来た。警備会社に勤めていた際、まじめさをエンに買われた。
 それが災いしてか、「外」の情報屋には良いようにあしらわれてしまった。
「情報屋スイ、か……」
 大口の顧客をたくさん持つという。守護者だという。情報以外も扱うともいう。
 ――正体は、分からない。
 エデンに住まうもののほとんどは、守護者が何かを知らずに生きる。ごく一部の上層階級と一握りの研究者、エデンの暗部に生きる者たちでなければ、関わることがないのだ。ハイワンも、蔡主に仕えるまで実在すら怪しんでいた。ただ、慈悲のみでできているような存在だと夢物語に聞かされた。
「……ままよ」
 くしゃり、と地図を握り締めた。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2010

08.26

自由になる為に生まれた.1.

 その日ラグドールは、ピンクに染めた長い髪をお下げにして、上機嫌で帰り道についていた。染めたばかりの髪の色が気に入っていた。
 彼女らは猫共、と蔑称されることが多い。敢えて縦に長い瞳孔を好み、気分屋で気位が高い。ラグドールは姉妹だと言われる仲間のリンクスよりも衝動的で、少女のように潔癖で。
 隣を歩くアルビノ、ヘテロクロミアの佳人もまた同じ仲間で、オッドアイと呼ばれる。その腕に自分の腕を絡めながら恋人のように接する。オッドアイは女性であるが――本人も女性だと言い張るが、小柄な姿でいることの多いラグドールと違って、長身でぱっと見は性別が分からない。
「ねえ見て見て。良い色でしょ」
 交差点で小さくクラクションを鳴らした車に駆け寄った。ステージの上でそうするようにくるりと回ると、ふわりとミニスカートがひらめいた。車の中からオリエンタルな美女が半身を乗り出し、お下げをつまんだ。
「派手だな」
「あんたが地味なのよ。金髪か黒髪か、どっちかしかないなんて楽しくないじゃない」
 ラグドールはぷいと唇を尖らせる。リンクスが車の中に身を戻すと、後部座席のドアが開かれた。
「暑いでしょう、早くお入りなさいな」
 柔らかなトーンの女声が、運転席から上がる。猫共、と呼ばれる最後の一人、メインクーンだ。合計4人が――3人と一体が、楽園の猫と呼ばれる仕事屋集団だった。栗色の髪と焦げ茶の虹彩のメインクーンが一番外見上では人間らしい「動く機械」だ。
 二人が車に乗り込んだところで、オッドアイが切り出す。
「ターゲットはハイワンという華僑。蔡氏を裏切って逃走した男だ」
「何をしたのかしら」
 蔡氏とは、4人と馴染みの、世界で五本の指に入る商人で、当主は特に蔡主と呼ばれ、絶大な力を誇る。――そう、東海の小島のエデンでも知らぬ者はない。
「まあ聞けよ。当代蔡主お気に入りのSPだったんだが、俺達のデータを持ってエデンに入ったそうだ。データは5カラットのダイアモンドに擬装して猫の首飾りにしてあったんだけど……」
「あら、まあ」
「何の冗談だ」
「んなもんどうやって気付くのよ」
 三者三様の応えに、オッドアイは苦笑した。
「すぐに読み取りはできないって話だけど」
 途端、リンクスが顔を顰める。
「私達の何を知られる」
「エンが持ってるわたしたちのデータなら、困ったわね、ものすごくプライヴェートなことまで知られてしまいそうね」
 やんわりとメインクーンが言う。当代蔡主エンは、彼女が産まれる前からの知己である。ラグドールは嫌あね、と鼻にかかった声を上げた。
「ハイワンならアタシ知ってる。アイツどっかに持ち込むのと引き換えにこっちと交渉する気じゃないかなぁ」
「交渉してくれれば良いけれど」
 窓口係のメインクーンは溜息をついた。
「エンはDNAレベルの情報を持っている。猫なんぞの首に下げるとはな」
「らしいといえばらしいけどね。ま、蔡氏には直接関係ないし。俺達で何とかしろってのがエンからのお願い」
「そゆの、お願いじゃなくって強制っていうンだってばー。てゆかアタシが髪染めてる間にそんなコト話してたのっ?」
 車内がラグドールのかしましい声に染まる。
 四人にはそれぞれ、親しい人にしか呼ばせない特別な名前があった。ラグドールの話はそれに及ぶ。
「アタシ、エンたち蔡主は別にしてもこのメンバー以外にリイザって呼ばれるの、ヤだ。アタシが呼ぶ名前で、みんなを呼んでほしくもない!」
 神妙にメインクーンが相槌を打った。
「あら、意見が合うわね。わたしも嫌よ」
 エンからの「お願い」は、あらぬ方向へ進む。
「要はハイワンを打ち殺してダイヤを奪い返せば良いのか」
「いや、データの保護が先だろう」
 唯一、本名を仕事にも使っているオッドアイがリンクスを制した。
「ハイワンを殺すのはその後が良いね」
 結局殺すことについては誰も異を唱えなかった。
「情報屋に網を張っておきましょう、ね、スイ」
「それは確かに俺達の仕事だな、マリア」
 スイと呼ばれたオッドアイはマリア――メインクーンにウィンクして返す。
「じゃ、アタシとライザは朗報待ってることにすれば良いわけ?」
 リイザは縦の瞳孔を細め、小首を傾げる。
「焦れる。早く探し出して情報屋へ向かうようせっつけ」
 リンクス――ライザは瞳以外は清楚な美人に見えるが、たいそう剣呑な雰囲気でスイを急かした。
 ふわりと微笑んだマリアが、場を締めくくる。
「任せて頂戴」
 一同、見た目に反して過激で危険なのは、彼女らを「猫」と呼ぶすべての者が承知の事実だった。また、彼女らもどう思われているか承知でその呼び名を許していた。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

 |TOP
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。