--

--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告:  トラックバック(-)  コメント(-) 

    2011

11.22

バニ誕 こっちへの掲載は遅くなったけどちゃんと誕生日には書いていたのよ!← 


 今日のサプライズは、ヒーローズプラス斉藤さん、ベンさんによる多分に悪戯心の溢れたパーティだった。
 トレーニングジムに入るなり、派手にクラッカーの音が響き渡り、拡声器により半ば叫び声のように聞こえる斉藤さんの「おめでとう」発言、年少組による手早いウサ耳の装着と、年長組によるベンさんと斎藤さん作成のカラフルなケーキ(花火のおまけ付)の贈呈というハロウィン仕立てのものだ。
 悪趣味な色合いのデコレーションケーキは一体誰の趣味なんだろう。きっと誰かが二人に入れ知恵を下に違いない。
 以前の演劇仕立てのサプライズよりはずっとマシだと思ったバーナビーは、みんなの期待に応えるべく、晴れやかな笑顔をみなに向けた――ウサ耳を付けたまま。
「ありがとうございます」
 ほら、やっぱりこういうオーソドックスなのがいいのよ、とコケティッシュな魔女に扮したブルーローズが胸を張る。でもあれ色が変だよ、とケーキを指差すキョンシーに扮したドラゴンキッド。いや、あれこそがハロウィンに相応しいものだと力説する吸血鬼のスカイハイ。いや誕生日だろ、と突っ込むフランケンシュタインなロックバイソン。とにかく楽しもうという趣旨らしい。
「すみません、遅くなりました……」
 恥ずかしげにもじもじするドラァグクイーンのファイヤーエンブレムに擬態した折紙サイクロン(ヒーローズの誰が見ても分かる)。その後ろから、カーニバルか歌劇団のような羽を背に揺らしながら悠々とやってくる方が、間違いなく本物のファイアーエンブレムだ。
「あぁら、乙女の身支度には時間がかかるのよ! ハンサムなら分かってくれると思うわ」
「折紙先輩がファイアーエンブレムにつき合わされたということだけははっきりと分かりますね」
 お誕生日は最強。時としてハロウィンより。

 しかし虎徹の姿が見えない。こういうことにはいの一番に参加しそうなのに。
 つい、探してしまう。
 そしてそれをブルーローズに身咎められる。
「タイガーを探してるの?」
 ふふんと事情を知っているように勝ち誇った笑みを浮かべる。
「タイガーなら今ふがもごごごご」
 ネタばらしをついしそうになったドラゴンキッドの口を押さえたのは、ファイヤーエンブレム。
「言っちゃ駄目よォ、サプライズなんだから」
「あなたのためにって思うとかなり不愉快だけど、あなたの知らないことを知っているっていうのは気分が良いわ」
 好戦的なブルーローズ。しかし今日負けるバーナビーではない。
「もちろん僕のために彼自身が考えてくれただろうことは分かっていますからね。あなたが何を知っていようと僕の優位性は変わりません」
「ただのJK扱いするにしてはずいぶん真に受けてくれるのね」
「僕の誕生日ですしね」
「私のこの衣装はハロウィン仕様よ!」
 はい、キレた方の負け。
「あ、今日はブルーローズ完敗」
 様子を見ていたドラゴンキッドが、唇を噛み締めるブルーローズを遠巻きにしつつ判定を下す。
「にしてもワイルドタイガーはあの扱いに対して不満はなかったんだろうか?」
 首を傾げるスカイハイに、大丈夫だよ、とドラゴンキッドは笑いかける。
「きっとタイガーは、バーナビーが喜んでくれたらそれでいいんだと思うよ?」
 聡い子である。なるほど、とスカイハイは力強く頷いた。

 その頃。
 巨大なフェイクファーの塊と化した虎徹は、大きなリボンをかけられて別室に閉じ込められていた。
「どうせならポイントの方にしておけば良かったか……」
 虎柄の着ぐるみが、ごろりと転がっている。派手なリボンに包まれて。
「なーんか間違った気がする……」
 首に付けられた荷札には「Happy Birthday for dear Barnaby!」の文字が踊っている。
 今頃トレーニングジムではパーティになっている頃だろうか。頃合を見て出してあげるとファイアーエンブレムに唆され、ファーとリボンで飾り立てられてしまった現状を、どう理解すれば良いのか。ヒーローズと一緒におめでとうを言ってやりたかった気もする。
「絶対間違った気がする」
 不安は、確信に変わった。
 何とかリボンを外そうと試みるも、フェイクファーと詰め物のおかげで手が自由に動かせない。こんなことでハンドレッドパワーを使うのも馬鹿馬鹿しい。
 思案しているところに、女子組の黄色い声が聞こえてきた。
『まぁ良いからそこ入って入って』
『私たちがわざわざ用意したんだから文句は受け付けないわよ』
『大丈夫だって、変なもの仕込んでないから』
 いや、ファーとリボンでラッピングされたおじさんは十分に変なものだろうと突っ込みたいぞドラゴンキッド。
 シュン、とドアが開き。
「ハッピーバースデイ、バーナビー! 最高のプレゼントを用意しておいたわよぉ!」
 お茶目(?)なファイヤーエンブレムの声とともに、バーナビーの背中は押された。
「え?」
「おい!」
 シュン、と再び音がして、ドアが閉まる。
「ちょっと? ネイサン? 出してくれるってのはどうなった?」
 ほーほほほほと高笑いが聞こえる。
「……虎徹さん……何なんですかその格好は。それがハロウィンの仮装ですか?」
「無理やりだっつーの! お前こそ可愛いお耳がついてるじゃねぇか」
「まったく……仕方がないおじさんですね」
 がっちり絡まったリボンは容易に解けない。
 ふと、荷札がバーナビーの目に留まった。
 ふわりと目元が綻ぶ。
「eat me」
 バースデーカードの裏には、そんな文字。
「虎徹さん、気付いてますか、この荷札」
「女子組がキャラキャラ笑いながら付けてったよ」
「こういうことは本人から言わせないとですね」
「あぁん? 何が書いてあるんだ?」
「内緒です。折角だから記念にもらっておきますね。虎徹さん、前に言った一日の束縛……」
 少し記憶を掘り返すと、確かに言った、おはようからおやすみまで、ずっと一緒に。
「明日の万聖節、、貰ってもいいですか」
 なんとかリボンがほどけて、自由になったふわもこの手で、虎徹は微笑いながらバーナビーの頭をポンポンと軽く叩いた。
「まずはこのぬいぐるみから抜け出すのが先だな。そのあとはお前に任せるよ、バニー」
 滅多に見せない美人の極上の笑みを、返した。

「バーナビー、誕生日おめでとう。ご両親に感謝しに行かなくちゃな」

「じゃぁ、お墓参りも含めて一日独占ですね。
 バーナビーはぬいぐるみごと虎徹を抱きしめた。
「僕のオジサン、ですからね」
「わぁーったって。って顔近い近い。」
 額に、かすめるくらいのキス。
「さ、抜け出せそうにないですし、このまま運んであげますよ」
「それはかなーりオジサン恥ずかしいかな」
「僕は気にしません」
 前科何犯か。お姫様抱っこのハンサムエスケープに、観念した。

「行き先は僕のフラットでいいですね。近いし」
「PDAが鳴ったら」
「二人揃って出動するんです」

「今度は虎徹さんの誕生日も祝わせてくださいね」
 はにかんで笑う、それはまさに子供のような笑顔だった。


□■□■□


「ところでファイアーエンブレム。最後にカードに追記したでしょ。何て書いたの?」
 ハッピーバースデイの件を渋々書いたブルーローズは、何やら細工していたのを見落としてはいなかった。んーあれはねーと右人差し指を顎にあてたファイアーエンブレムは、らしくない不敵な笑みで少女に返した。
「多分バーナビーが一番言ってほしい、もしくは言ってみたいフレーズよ」
「何よそれ」
「きっとブルーローズも言ってみたいんじゃない?」
「何、私敵に塩を送っちゃったの?」
 軽くショック。
 額に手の甲をあて、上を向く。
「後悔?」
 ドラゴンキッドに聞かれ、ブルーローズは額にあてた手をぐ、と握り締める。「あとで絶対挽回するんだから」
 何しろ誕生日。仕方がない。そう思うことにして、ブルーローズはファイアーエンブレムに宣誓した。
「奪われる前に絶対助けだすわ!」


 本日も通常運航。平和なジャスティスタワーだった。
スポンサーサイト

小説トラックバック(0)  コメント(1) 

    2011

08.31

Papa told me.3.

 迎えに来てくれたのは、お父さんと、高校生くらいのお姉さんと、背の高い派手な人。
(いったいどこでそういう人間引っ掛けてくるんだか…)
 色々言いたいことはあったが、二人が父親とどのような関係であれ、乱してはならないもののような気がした。
「はじめまして。鏑木楓です」
 ぴょこんとお辞儀をすると、トップで結われた髪も踊る。
「始めまして、私はカリーナ・ライル。今日はあなたの衣装アドバイザーとして同行するわ。鏑木さん……あなたのお父さんはお留守番だから、女の子だけで楽しみましょ」
 にっこりと微笑むブルーローズに小声で聞いた。
「……あの人も、女の、子…?」
 ちらりとファイヤーエンブレムを見て、慌てて視線をブルーローズに戻す。
「あらぁ、私もちゃんと女の子で数えてよね。ネイサン・シーモアよ。アドバイザー兼保護者として一緒に行くわ」
(やっちゃった…聞こえてたんだ、どうしよう)
「子って歳じゃないけど心は乙女らしいからこういう買い物のときはおじさんより役に立つんじゃない?」
 妙に「おじさん」に力がこもってるような気がする。確かに、カリーナにとっては充分おじさんだ。
「軍資金は私が預かっているわ。さ、行きましょ」
 弾んだ声で、高級車の運転席におさまるネイサンである。普段レトロといえば聞こえは良いが、古びたワンボックスに乗っている楓にしたら、こんな高級車はなんだか居心地が悪い。
 車の後部座席に乗ると、続いてカリーナが乗り込んできた。
「奥につめて、シートベルトして」
「は、はいっ」
 緊張しているのは仕方ないだろう。
「もしかして、今日の目的、聞いてないの?」
 こくり、と小さく頷く。
「まぁーったく、タ…虎徹ちゃんって肝心なことが抜けてるわよねぇ」
「一応訊くけど、見晴らしの良い高いビルの最上階に、回転するレストランがあるの。行ってみたい?」
「誰と行くの? ……まさか、お父さん…?」
「プラス、今回のご馳走はなんとあのバーナビー・ブルックスJrよ」
「えええええ!? 本当にお父さん、アポ取ったんだ!?」
 自分を喜ばせるための方便だと、すっかり思っていた。
「バーナビーさんって、忙しいんじゃないの…?」
「そこに無理を言ったのよぉ、あなたのために、あなたのパパが」
「これなら場所はどこでもよさそうね。じゃ、そのレストランにふさわしい洋服、買いに行きましょ」
 ようやく、父親が邪魔なことが分かった。とにかく女性は買い物が大好きだ。ウィンドウショッピングするだけでも楽しいのに、男性にはそれが理解できないらしい。
 はっと我に返った楓は、自分がいつもの普段着で、いつもどおりの髪型で来たことが、とても恥ずかしくなった。
(こんなことならもうちょっと女の子らしい格好してくるんだった…)
 シュテルンビルトは大都市だ。自分は、田舎の小娘だ。
「あの、ごめんなさい、私いつもの格好で来ちゃって……」
「いつもじゃない格好になって、パパも驚かせちゃうのよ。だから今はいいのよ、それで」
 ルームミラーに映ったネイサンの笑顔に、楓はほっとした。
「もひとつ訊きたいんだけど、良いかな」
「「なぁに」」
 同じ返事が返ってくるのに、思わず楓は小さく吹き出した。
「ふふふっ。あのね、お父さんとどういう関係なの、二人とも。仕事で会うんだったら、ライルさんはまだお仕事してない年齢でしょ。シーモアさんも…なんだかお父さんとはそぐわない感じ」
 でも妙な連帯感も感じたのよね、と腕組みをする少女に、カリーナは余裕の笑顔で答えた。
「私、確かに高校生だけど、バーで歌ってるの」
「私は飲み友達ってところかしらねぇ、そのバーの」
 心配するようなことは何もないわ、と二人は口調を合わせる。この辺り、事前に仕込んでおいたネタではあった。
 まったくの嘘は看破され易いが、事実そのような一面もあるだけに、嘘をつくのが苦手な虎徹と違って、二人にとっては余裕の会話である。ただ、虎徹を「タイガー」と呼べないことだけは、ぎこちなさを感じはする。
「今日の格好はボーイッシュでそれはそれで良いんだけど、どうせなら素敵なレディに変身しないとねぇ」
「シルバーステージのアウトレットモールよ、ネイサン。ゴールドステージじゃ、背伸びしすぎだわ」
 さらに上へ行こうとハンドルを握るネイサンに、カリーナが指摘する。
「9歳なのよね、楓ちゃん。あんまりガーリッシュなのも苦手なんでしょ」
「……分かるの?」
「似たような子を知ってるだけよ。ね、どんなブランドが良い?」
 ファッション雑誌をめくりながら、他愛ない会話を続けた。
 いつの間にか、楓の警戒心はすっかり溶けてしまっていた。


 あんまり女の子しすぎてるのはちょっと、という楓の意見を聞き入れた二人が選んだのは、ふんわりシフォンの水色のワンピース。髪は下ろして、様々な青色に光るビーズで丁寧に作られたカチュームを留める。カチュームとお揃いの腕輪をした。靴は紺色のラウンドトゥ、エナメルでストラップが付いている。
 化粧はといえば、眉を整えて頬紅を軽く注し、唇にたっぷりのグロスを乗せただけである……が、印象がずいぶんと大人びて見える。
「よし、完了」
 メイクをかってでたのはカリーナである。虎徹の家に上がるのはそれはそれは緊張したが、「楓のため」という大義名分がある。家の場所も知ることができてラッキーと思わないこともない。
 靴とお揃いのエナメルのポシェットにグロスを入れると、にこりと微笑んだ。
「変じゃない…?」
「あら、私の見立てに文句でもあるの?」
「だってこんなの、初めてだし…」
「大丈夫よ。まずはパパにお披露目ね」
 鏡のあるパウダールームから少女の細い肩を押して、さぁと促す。

「楓?」
 うつむいたまま何も言わない娘に、虎徹は心配そうに声を掛けた。スカートをぎゅっとつかみ、何をか言いたそうな様子ではあるのだが。
「……お前、友恵に似てきたなぁ」
 微笑みながら、ぽんと大きな手のひらを頭に乗せた。
「ちょっと、せっかくセットしたんだから崩しちゃダメよ、タ…鏑木さん!」
「おぅ、そりゃ悪ぃ。ありがとうよ、ブ…カリーナ」
 名前をお互い噛んでいる。いつもと違う呼び方で慣れていないのだ……が、楓に気付く余裕はなかった。
「お父さん、私……変じゃない?」
「変なわけないだろう! 任せて良かったよ、ありがとうな、カリーナ」
「それよりちゃんと聴きに来てよね…っ」
「おぅ、分ーってるって」
「あの、ライルさんっわざわざありがとうございました!」
「どういたしまして。借りはパパの方につけておくから気にしないでね」
 にっこりと微笑みながらひらひらを手を振る。――今回、虎徹はどれだけの借りを作ったのだろうか。考えないことにして、今は楓に集中する。
 す、と差し出した虎徹の左手に、自然と楓は自分の右手を重ねた。
 ごく自然な、親子の形だった。左の薬指のリングの光が、カリーナには眩しかった。あのリングをはめた人は、どんなに幸せだったんだろう――と考えつつ、いやいやと首を振る。
(私はもう、関係ないんだから。しっかりしろ、カリーナ・ライル!)
「おーいカリーナ、ついでだから送ってくぞ、乗ってけ!」
 鈍感なおじさんはあくまで鈍感だった。


 バーナビーは赤いダブルボタンのスーツを着こなし、ホテルのフロントで楓と虎徹を迎えた。
(うわー!うわー!うわー! 本物だ!!)
 ぽかんと見上げてしまった楓は、バーナビーにじっと見つめ返されて、慌ててぺこりと頭を下げた。
「あの、前回は助けてくれて、ありがとうございました。鏑木楓ですっ」
「覚えてますよ、まさか虎徹さんの娘さんだということは知りませんでしたけど」
 どこまで親しいのか、楓にはさっぱり分からなかったが、思った言葉は言わないと意味が無い。思いきって聞いてみることにした。
「実は私、お父さんの仕事、何してるとか知らないんですけど、どうしてバーナビーさんはお父さんの無茶なお願い、聞いてくれたんですか?」
「僕を助けてくれたからですよ」
 え、と思わずバーナビーを見たのは、楓だけではなかった。虎徹も、シナリオに無い発言にいったい何が起ったか分かっていなかった。
「最上階でしたよね、行きましょう。娘さんはこんなにお洒落をしてきてくれてるのに、虎徹さんはいつもと変わらない格好ですね」
「まぁ良いじゃねぇか。今日の主役は楓なんだしさ、気にすんなよバニー」
 言ったところで、思いきり楓は虎徹の足を踏みつけた。
「バーナビーさん、でしょ」
 幸いヒールのある靴ではなかったが、ツンとした楓の言い方に、虎徹は大いに傷ついた。
「良いんですよ、楓さん。何度言っても直さないんですから、もう慣れました」
「何度も? ちょっとお父さん、常識無いんじゃないの?」
「いやだってさぁ楓ぇ、ヒーロースーツ姿見たことあんだろ? こう、お耳がピーンと」
「それ以上言ったらもう口きかない。黙ってて」
 くすり、とバーナビーは微笑った。
「いいですね、家族って。そういう遠慮の無い他愛ない話ができる相手が、僕にはもういませんから……」
「ほんっとうに失礼な父でごめんなさい、バーナビーさん。こんなので良ければ熨斗つけてお譲りします!」
 そんなに物欲しそうな顔をしていただろうかと思いつつ、楓の発言に否やは言わず、ちらりとバディを見やったバーナビーだった。
「……楓さん、虎徹さんが涙目になってますよ」
「だって、約束は守らないし、肝心なときにいないし、なんにでもマヨネーズかけちゃうし、チャーハンしか作れないし…。そんな心配これからずっとしなくちゃならないんだったら、大事にしてくれそうな人にあげる方が良いに決まってるじゃないですか」
 耳に痛い発言はあるものの、父親を心配する娘としては真っ当な意見にも聞こえる。
「言いたいことあってもすぐに逃げちゃうし、わけ分かんない理屈ではぐらかそうとするし。そんなお父さんでも……お父さんは、子離れするべきなんです。……あ、ごめんなさい、やっぱりいらないですよね……」
(私何言ってるんだろう)
 バーナビーの過去については、テレビでも告知されていた。犯人が捕まってめでたしめでたし、という状況なのも分かる。
 そして、楓が虎徹のことを口にするたび、バーナビーは羨ましそうな目をする。気がついていないのは、当人たちだけということなのか。
「バーナビーさん、……なくしたからすぐ次の代わりを、なんてできるわけないけど……私もお母さんが死んじゃったからぜんぜん分からないじゃないですけど、でも、欲しいものは欲しいって言わなくちゃ、お父さんみたいな鈍感な人には、わからないです。絶対」
 言葉の最後に力をこめて、じっとバーナビーを見つめ返した。
 大人たちは何も言わない。虎徹に限って言えば、娘に物扱いされたことがショックで立ち直れていない。
「……そうですね」
 ようやくバーナビーは一言だけ返した。翠色の瞳に力が戻ったように感じられた。
「もう少し、あなたのお父さんを借りていていいですか? 仕事が入れば振り回してしまうし、なかなかあなたにも会いに行けないと思います」
「今までだって「帰る帰る」詐欺には何度もあってるから大丈夫です。でも、バーナビーさんの助けになるお仕事って……ほんとに何やってるの、お父さん?」
 急に振られて、虎徹はもごもごと口ごもる。
「あぁ、いや、友恵に約束したんだ、言わねぇって。悪ぃな、楓」
「変なところで頑固なんですね、あなたのお父さんは」
「やっぱりそう思います? 失礼な上に頑固だなんて、ホントどうしようもない」
「でも楓さん、僕はこの歳になるまで両親の死に囚われていた。それが吹っ切れたのは、このおじさんのおかげでもあるんですよ」
 だから、どうしようもないなんて言わないであげてください。
 そんな風に聞こえた気がした。



 私は鏑木楓、もうすぐ10歳。
 ちょっとだけバーナビーさんの寂しさを知って、ほんのちょっとだけ大人になれた気がする。
 お父さんのお仕事は相変わらず謎だけど、憧れのバーナビーさんの役に立ってるみたいで、なんだか少し誇らしかった。でも、誰にも内緒にしておこうと思うの。
 ふわふわのお洋服を用意してくれたお姉さんたちと知り合えて、ヒーローTVでは見ることのできないバーナビーさんの一面を知って、絶対内緒にしなくちゃって思ったこの休暇。お父さんの秘密に迫れるかなと思ったけど、もう少し先までそれはおあずけみたい。
 今はしょうがないか。

 いつか、お父さんやバーナビーさんの役に立てるような大人に、なれたら良いな。
 そのころにはお父さんも大事な人を見つけていられたら、もっと良いな。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2011

08.31

Papa told me.2.

 きらきらと楓の黒い瞳が輝いた。
「会えるの!?」
 ヴィジフォンを間に挟んで、親子は久し振りに会話を果たしていた。その喜びように、内心虎徹はほっとした。こんなことならもっと早くに会わせてやれば良かったのか。
「楓ぇ、お前がそんなにヒーロー好きだったなんてパパ知らなかったよぉ」
「その気持ち悪い話し方、しないでっ! 私もう子どもじゃないんだから」
 ぷぅ、とむくれる姿も、虎徹の目には可愛く映る。
「あと、好きなのはバーナビーさんだけで、他のヒーローは別にどうでもいいんだからっ」
 ツン、と顎を反らせて虎徹にダメージを与えまくる。容赦がない。
「でも……お仕事の邪魔にならないかな、バーナビーさんって忙しいんでしょ」
 気が利くのは母親譲りか。
「あぁ、大丈夫だ。確かに途中で仕事が入ったら抜けなきゃならないかもしれないけど、全く会えないって程でもないだろ」
「じゃ、ちょっとだけお父さんのこと信じてみる。ホントのホントに会えるのね、シュテルンビルトに行っても良いのね?」
 うんうんと眦を下げて虎徹は答える。
 楓の住む田舎と違って、シュテルンビルトは大都市だ。大都市であるが故、危険も誘惑も田舎とは比較にならない。けれどヒーローが二人も……楓は知らないにしても、二人のヒーローが守るのだ。
「あー楓、あとほしいものとか行きたい場所とかあったらちゃんとパパに言うんだぞ」
「わかってるって。お父さんそういうの疎いもんね。ちゃんと言うからちゃんと返事してよ!」
「悪いって、ごめん、どーしても仕事が…っと、ごめん楓、仕事だ」
 左腕のリストバンドが光っているのは、楓には見えない。
「もう、お父さんってばいったい何やってるのよ。秘密秘密ってずーっとそればっかり」
 作文も書けなかった、と楓は頬を膨らせる。
「だぁからごめんってばー楓ぇ~」
「もう知らない!」
 がちゃん。受話器を乱暴に置く音が、耳に痛い。けれどそのとき既に虎徹の表情はヒーローのそれになっていた。


 はぁ~~とため息をついて、トレーニングルームに戻った虎徹は、バーナビーから紙コップを受け取った。中身は冷たいコーヒー。一気にあおると、もう一度肩を落とす。
「何かあったんですか、虎徹さん。今日はミスなくポイントも取れたのに、ずいぶん浮かない顔ですね」
「あぁ、楓に「もう知らない!」とか言われちゃってさぁ……」
 娘のこととなると、落ち込んでばかりだ。
「ちょうど招集かかったときに、楓と話してたんだよなぁ」
「少しへこんでいるくらいの方が無茶をしないで済むって訳ですか」
「本気で悩んでんのにバニーちゃんは」
「分かってますよ。彼女と会っているときに招集がかかったら、虎鉄さんは彼女といてあげてください。少しくらい、僕だって一人で大丈夫ですから」
 にこりと微笑まれると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議なものだ。ジェイク・マルチネスを倒してからというもの、確かにバーナビーは人当たりが柔らかくなった。精神的に余裕ができたのだろうか。ウロボロスについてはその後まったく情報は得られていないが、地道な調査は警察によって続けられている。
「まぁ、そのときは頼む。一応楓には行きたい場所とか欲しいものとか聞いてみたんだけど、途中で会話切れちゃったし……」
 言いながら、また、肩を落とす。
「ナニナニ、バーナビーがタイガーをいじめてるの?」
 ひょこりと顔を出したのは、ドラゴンキッドだ。電撃とカンフーの使い手である少女が、ヒーローでは最年少。そういえば、とバーナビーの方から少女に話を切り出した。
「そういえばドラゴンキッド、ご両親にどこかへ連れて行ってもらうとしたらどこが良いって言いますか?」
「え、僕? うーーーーん……会えるだけでも嬉しいんだけどなぁ……どこ、どこ…ねぇ、ブルーローズはどこに行きたい?」
「はぁ? 何でアタシ? っていうかもう親と出かけて嬉しい年齢じゃないわよ。ちょっと折紙サイクロン、たとえばあなただったら?」
「僕も…ドラゴンキッドと一緒で会えるだけで嬉しいかな。夜景のきれいな場所へ連れて行ってあげたいとか、そういうのじゃだめかな」
「素晴らしい! 実に素晴らしい親子愛だ! 私ならば空からこのシュテルンビルトを観光させたい!」
 いつの間にか話がすり替わっている。そして人が増えている。落ち込んでいるわけにはいかなくなった虎徹が、そうじゃねぇよとスカイハイを制した。
「子が親を、じゃなくって親が子を、だ。9歳って何だ? どうにも難しくってだなぁ」
「え、9歳の子持ち!?」
 超反応したのはブルーローズだった。子供がいるのは知っていたが、もうそんな年齢だとは。
「どうやらこの僕、バーナビー・ブルックスJrのファンらしくてね。普段寂しい思いをさせているその子に何かしてあげたいみたいなんだけど、このおじさんは頭が固くて子供の気持ちがわからないときてるんだ」
「あらぁ、誰の気持ちにだって気付かないわよ、ねぇ。タイガーは。鈍いもの」
「確かに鈍いな。鈍いお前がどうやって友恵さんを口説き落としたか、よーく思い出してみるんだな。話はそれからだ」
 ファイヤーエンブレムとロックバイソンが横から口を挟む。
「貴様ら揃いも揃って好き勝手なことを…」
 虎徹の堪忍袋の緒が切れる前に、バーナビーがまぁまぁと肩に触れた。
「僕は両親の代わりにマーベリックさんに色々な場所へ連れて行ってもらいましたよ。小さすぎて覚えていないんですけどね……覚えているのは、両親が亡くなったあの日のことだけで」
「あぁ、悪ぃな、嫌なこと思い出させちまって」
「良いんですよ、もうジェイクは死んだんですから」
 にこやかにバーナビーは言い切った。
 だが、まだ分からないことが多すぎる。ウロボロスの一員である、ジェイクと一緒にいたあのクリームという女はまだ目を覚まさない。そんな不安要素もある中、バーナビーは憑き物が落ちたように晴れやかだった。まるで世界が違って見える、と。
(まぁ、だから楓に会ってくれなんて言い出せたんだけど……)
 鈍いと言い切った二人には拳骨をお見舞いしてみても、なぜかバーナビーには気を遣ってしまう。強く言い出せない。
「ほら、シュテルンビルトの観光案内パンフレット! もらってきてあげたわよ、わざわざ私が」
 ブルーローズが、役に立たない男どもを尻目にいくつもあるリーフレットや小冊子を机に広げた。
「このビルのコンシェルジュって結構使えるのね、おのぼりさんには」
 なんとなく言葉に棘があるようだが、ロックバイソンの首を絞めていた虎徹はその腕を解き、謝意を示す。
「悪ぃな、ブルーローズ。すんげー助かるわ」
「気付かないほうがおかしいのよ」
「あ、僕ここ行ってみたいな、最上階の回るレストラン!」
 横からひとつさらったドラゴンキッドが、紙面の一角の「夜景スポット」と紹介されている箇所を指差した。
「子どもっぽい」
 早速ブルーローズに駄目出しを食らったが、でも、とドラゴンキッドは続ける。
「9歳なんでしょ、僕なら喜ぶから僕よりちっちゃい子ならもっと喜ぶよ!」
「私は喜ばないってこと。で、バーナビーと会うんでしょう、服の一式くらい揃えて買ってあげるとかしなさいよね」
 子どもっぽいと切り捨てたものの、ドラゴンキッドの提案にはどうやら乗り気らしい。年少者に対する意見は年少者に聞くほうが良いと、分かってはいるのだ。
「夜はお酒も飲めるみたいだから、9歳児にはちょっと高尚なんじゃなぁい、ブルーローズ」
「ファイヤーエンブレムには分かると思ったんだけど? 乙女心」
 乙女と言われて途端に頷くファイヤーエンブレムである。
「そうね、お出かけ着は買ってあげるべきよね」
 虎徹は嫌な顔をした。女性陣の買い物がとかく長くて大変な労力を伴うものであることを、経験則で知っていたからだ。
「今持ってるもんじゃ、だめなのか?」
「タイガー、あなた乙女心を分かってないわねぇ。好きな人に会いに行くんだったらめいっぱいおしゃれしたいわよね、ブルーローズ?」
「もちろんよ」
「でもわざとっぽくて僕はやだなぁ。だって女の子みたいな格好しなくちゃならないんでしょ?」
「ドラゴンキッドも好きな人ができたらそういうようになるわよぉ」
 くねくねと踊る大男ははっきり言って見たくない。だんだん何の話か分からなくなってきた虎徹は、上を仰いで右手を額に当てた。
「夜景を見るための洋服か? なんか違うような気が…」
「「しないわよ」」
 二人の「乙女」に迫られる。
 ぐ、と身を引いた虎徹は、だったら、と持ちかける。
「お前ら二人、楓の買い物に付き合ってもらえねーかな?」
「虎徹さんにしてはいいアイデアですね。二人の穴は僕たちで埋めましょう」
「で、着飾った娘さんとタイガーはもちろん、バーナビーもお食事のときは休業ね」
「僕は召喚されたら行きますよ。ヒーローですからね。休むのはおじさん一人です」
「何だそのまるで俺がヒーローじゃないみたいな言い方」
「でも呼び出されて困るのはタイガーの方なんでしょ?」
 どうやらブルーローズも、虎徹が楓にヒーローであることを明かしていないと知っているようだ。四面楚歌。
「どうしてもってタイガーが言うなら、カリーナ・ライルとして、買い物に付き合ってあげてもいいわ」
 素直に甘えておいた方が良さそうだと判断した虎徹は、両手を合わせてまた懇願ポーズである。
「悪ぃっ。二人とも、頼まれてくんねえかな?」
「今度いつものバーでお酒でもおごって頂戴よぉ」
「……また、歌を聴いてくれるんなら、聞いてあげないこともないわっ」
 擦り寄ってくる大男と、つんと顎をそらせた少女と。
「楓のためなら何でもする!」
 ぴしっ。
 空気が凍った気がした。
 不機嫌そうなブルーローズと、これまたどうしたことかさっきまでの余裕を吹き飛ばしたバーナビーと。二人から妙なプレッシャーを感じる。
(何で?)
 途方にくれた表情の虎徹に、ロックバイソンがぼそりと言った。
「お前、本当に鈍いんだな」
「んだとぉ? お前に言われる筋合いは」
 ない、と続けようとしたところで、スカイハイに両肩をつかまれた。
「感動した。私は感動したぞ、ワイルドタイガー。君はなんて良い父親なんだ!」
「いやぁ、いつも約束破ってばかりの駄目な親でぇぇぇぇぇ!?」
 前方にスカイハイ、そして後方にバーナビー。スカイハイから引き剥がすように、後ろからバーナビーが虎徹の両肩をつかんで引き寄せた。
「その話はもう聞きました」
 聞いてないし! というその他全員の視線をものともせず、バーナビーはそのまま虎徹を引きずってトレーニングルームから出て行ってしまった。
「何あれ」
 ブルーローズの一言が、その場全員の言葉を代弁していた。


 ロッカールームまで引きずられた虎徹は、押さえつけられるようにしてベンチに座らされた。
(何か悪いことしたっけなぁ…?)
 バーナビーの眼鏡の奥が、心なしか恐ろしい。どうやら怒らせてしまったようだと、そこまでは気付いたのだが、何に怒っているのかは皆目見当がつかない。
「……あのさ、今のってさすがにちょっと感じ悪くない? バニーちゃん?」
「バーナビーです。虎徹さん、あなた、自覚はあるんですか?」
 何の、と訊きたいが、聞ける状況ではなさそうだった。
「……どれだけ僕が心配しているか、気が付かないんですか」
「心配?」
 見上げたバーナビーに、ついと目を逸らされた。
 これがもしブルーローズであったなら鈍感と罵られるだろうし、ファイアーエンブレムであったなら鈍いのねぇと言われながらセクハラまがいの行動を取られるのだろう。が、相手は幸か不幸かバーナビーだった。
 そして、その鈍感であるところの虎徹は、押さえつけられ上がらない腕を無理やり動かして、ぽんぽんとバーナビーの肘を軽く叩いた。
「だぁーいじょうぶだって、バニー。何を心配してんのかは良く分からねぇけど、そんなに深刻な問題なんて」
「あるから心配してるんです。無自覚に人の気も知らないで何でそんなに愛想振りまいてるんですか」
 一息に言うと、はっと我に返り、力いっぱい押さえつけていた虎徹の両肩を解放する。かっと頭に血が上り、頬が赤く染まるのが分かる。
 言うつもりなんてなかったのに。
 思いっきり後悔の念を露わにして、とにかく、と続けた。
「娘さんと会ったら何でも言うことを聞いてくれるということでしたよね」
「何でもっつうか、まぁ、そう、だな」
 見上げているのは首が疲れる。そんな風を装って、頬を染めたバーナビーから視線をおろした虎徹が口篭る。
「じゃぁ約束してください。一日だけで良いですから僕に束縛されることを」
「ヒーローの仕事はどうすんだ?」
「僕のアシストをしてもらいます。周りはみんなライバルですから」
 束縛。
 その意味をあまり深く考えず、虎徹は応、と答えた。
「おはようからお休みまで一緒にいてやるよ」
「……違えないでくださいね?」
 視線を逸らしたときからずっと見つめられているのが分かる。鼓動さえも伝わるだろう至近距離。
「何なら子守唄も歌ってやるぜ。友恵仕込みのとっときの奴を……って何でそこで睨むんだ」
「他の人のことも考えないでください。奥さんのことも娘さんのことも」
「バニーちゃん……ずいぶんな難問を出すもんだなぁ」
 分かっている。これは嫉妬だ。流石に虎徹も気が付いただろうか。
「善処する。でも楓に心配かけたくねぇからな、あいつに会うときは取っときの笑顔で頼むぜ、ヒーロー」
 虎徹は、ぽす、と拳をバーナビーの腹に当てた。

 そのときバーナビーがはにかんだように微笑んだことを、虎徹は知らなかった。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2011

08.31

Papa told me.1.


 わたしは鏑木楓、9歳。
 もうお父さんに甘える歳じゃない。そう、思ってる。
 お父さんは私とは別のところに住んでいて、最近お父さんは職場が変わったみたい。だけどそんな連絡があったこと、わたしは知らない。
 でも、お父さんが最近ちょっと変わったかなと思うこともあるの。
 この前も電話でヒーローに会わせてくれる、なんて大うそついてたけど、もしかしたらお父さんは「伝説のレジェンドさん」じゃなくて、別のお父さんだけのヒーローを見つけたのかもしれない。
 何となくだけど、こういうの、女のカンっていうのかな。


「悪ぃっバニーちゃん、ちょっとお願い!」
 両手を合わせて、拝むようにそっと上目遣いをする仕種の「お願い」は、これまでも幾度となく目にしたものだった。
「……まったく、今度は何なんですか?」
「いやぁ、楓がどうしてもバニーちゃんに会いたいって言うから……」
「何で虎徹さんの家族サービスに僕が付き合わなくちゃならないんですか」
 バーナビーの機嫌はよろしくない。いや、はっきり言って不機嫌だ。
「前にお前がほら、その、楓を助けたことがあっただろ? そんで楓がどうしてもバニーちゃんに」
「会ってお礼が言いたい? 僕たちの仕事はシュテルンビルトの街を守ることですよね、あの時はたまたま居合わせたのが彼女だっただけで他意はありません。全員に会っていたら間違いなくヒーローなんてできませんよね」
 理詰めのバーナビーに、虎徹ははぁ、と溜息をついた。
「やっぱり……」
 がっくりと肩を落とす。それを見たバーナビーは、あぁ、でも、と顎に手をやり、宙を見た後、おもむろに営業スマイルで虎徹を見やり、言った。
「僕の「お願い」を聞いてくれるんでしたら、話は別ですよ」
 にこにこ、にっこり。
「え、マジで! 良いの?」
 その笑顔の奥に何があるのかを確認もせず、虎徹は躍り上がって喜んだ。
「本当に……家族思いなんですね」
「いや、約束とかしょっちゅう破っちゃうし、ダメな父親なんだけどさぁ、娘のお願いだったら、なんでも聞いてあげたくなるって言うか。アイツには寂しい思いもさせてるしな……」
 寂しい思いというのは理解できる。バーナビーも子どもの頃ずいぶん味わってきた。ただ、少女には父親と祖母がいて、自分には誰もいなかった。ちょっと八つ当たりしたくなるのは、仕方がないんじゃないか。
「で、どういうプランなんですか?」
「あ、悪り、なんも考えてなかったわ」
 にへら、と笑う虎徹にバーナビーは深い深い溜息をついた。
「大体僕たちの関係をどうやって伝えるんですか。確か娘さんには自分がヒーローであることを隠されていましたよね」
「お、おう。さすがバニーちゃん、よく知ってんじゃねぇか」
「でも9歳の女の子の生態なんて知りませんよ」
 二人の男が腕組みをして顎に手をあて思案顔である。
「とりあえず、身体動かしながら考えるか」
 虎徹は、身体が止まっていたら思考能力も止まると言わんばかりに、ランニングマシンに移動する。話の延長上、仕方なくバーナビーもそれに続いた。
「いい加減なお父さんですね。娘さんに嫌われますよ」
「うっせぇなぁ。お前のほうがオレより歳が近いだろ?」
 ぴし、とバーナビーの眉間に皺が寄る。
「何なんですか、大の大人をつかまえて。おじさんに子ども扱いされる筋合いはありませんよ」
 ついむきになって言い返すが、虎徹はぜんぜん堪えていない。それがますますバーナビーを苛つかせる。
「……お、そうだ、テーマパーク行こう、遊園地」
 ランニングマシンで走りながら、虎徹はぽむと手を打った。我ながら良いアイデア、と自画自賛である。確かに、父親が家族にするサプライズといえば、ありきたりな――それでも喜んでもらえる、賢明な選択だった。
 が、子ども扱いされた上、娘のことしか頭にない虎徹に、バーナビーはとうとうぷつんとキレた。
「それに僕は必要ないですね」
 きっぱりと言い放つ。は? と振り向いた虎徹は足を止めたため、ランニングマシンから見事に振り落とされた。
「うぉ、痛てっ…じゃねぇ、バニーちゃんが一緒に行くから意味あるんだろ?」
 腰を強打したのか、よろよろと手すりにつかまりながら涙目で訴える。
「あ、もしかしてバニーちゃん、遊園地嫌いだった?」
 ちくりと刺さる何気ない一言。どうしてこのおじさんは痛いところばかり突いてくるのだろう。
「僕の遊び場は両親の研究所でしたから」
 さすがにこれには虎徹も気が付いた。バーナビーは幼くして両親をなくしているのだ。
「……悪かった。その、なんだ、憧れのヒーローと一緒に遊べたらなぁと思っただけで……」
 まったく、とバーナビーは何度目かの溜息をついた。
「それは虎徹さんの子どもの頃の心象じゃないですか。……年齢的な話をするなら、僕よりもブルーローズやドラゴンキッドの方がより近いと思いますよ。同じ女の子ですしね」
 バーナビーにしてはソフトランディング。限りなく近くまで歩み寄っている。規則的な走りはやめていない。虎徹は頭をかきながら俯いた。反省はしているらしい。
「……どう紹介するつもりですか。いくら9歳だとは言っても、何でヒーローが父親と知り合いなのかは気になるところでしょうし」
 行き当たりばったりな虎徹が、珍しく溜息をついた。
「大人の事情、で乗り切るしかねぇなぁ…」
「9歳といえばそれなりに色々分かる年齢ですよ。だいたいどうして秘密にしているんですか」
「友恵との約束なんだよ。まぁ、気付かれちまったらどうしようもないんだけどなー」
 バーナビーは、虎徹の薬指のリングにちらりと目をやった。どうしようもなくおせっかい焼きで、いい加減で、何なんだこの人は、と思っていた。けれど、彼なりの理由があるんだろう。もやもやしたイラつきは消えなかったが、黙々と走ることに専念することにした。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

    2011

02.05

たくさんの君を知ってるつもりだけど 3

 だがその「仕事」は狂っていてもできる。久遠の「おばあさま」は完璧にやってのけた。愛する夫と娘を失い、二人を殺した恐ろしい悪魔を厭うた、そのことだけが彼女を狂人たらしめた。少なくとも、彼女は死ぬまでその考えを変えなかった。そして、その事象に関すること以外では、全く狂ってなどいなかったのだ。外交も内政も、機械のように完璧だった。ただ一度衝動的に街を破壊しただけで、彼女の風の刃が翠以外を襲うことはなかった。
 罪人は公平に裁かれ、善人は安楽を全うできた。
 月には守護者の思惑の加わった新しい人工都市が築かれ、世界的な交渉のテーブルには必ずと言っても良いほど彼女の姿があった。「風の魔女」――守護者の力と彼女の剛腕を、人々はそう讃えた。仕事では手腕を発揮する男が家庭では暴力を振るうことがあるのと同じように、彼女は外と内の顔を持っていた。犠牲者は、二人の娘だった。
 一人は、夫と娘自身を殺した悪魔と罵り傷つけた。
 一人は、愛した夫の忘れ形見と慈しみ愛おしみ殻に閉じ込めた。
 一人の娘は考えた。自分を傷付けることで自我を保てるならば、父の最期の言葉に従っていくらでも此の身を差し出そうと。
 一人の娘は考えた。母の言う通り、世界は悪意や害意に満ち溢れているから、殻に閉じこもらなければならないのだと。
 それらはすべて記録された。十二月守に係わる記録は十二月守にしか閲覧できない。先代華耶はすべてを二人の娘に伝えた。一人は許容し、一人は拒絶した。
 許容したのが久遠の母であり、拒絶したのが空の母だった。
 久遠にも、華耶から伝えられたことはたくさんあった。何故そんな恐ろしいことを教えられなければならないのか、幼い久遠は混乱した。それでも根気良く、翠も二人の猫も巻き込んで、記録は記憶として久遠に引き継がれた。
 二人の猫がなぜ知っていたのかは、デュークに言うべきことではない。ある程度事情を知っているデュークでも、猫どものことは久遠が伝えられる範疇外だった。デュークに伝えるならば、あの二人の許可が必要。デュークが興味を持っていることは分かっていたが、そこはしっかりと一線を引いていた。
「殺して良い人間と殺してはいけない人間を、狂っているかどうかで決めるのかい?」
「うーん……ちょっと違うんだけど、だいたい合ってる。その人が狂ってても狂ってなくても、周りに悪い影響があるなら、殺すべきリストに並べちゃうな」
 そして、徹底的に調べ、殺して良い理由が明瞭になれば、殺すのだという。エデンの住民の安全を図る為に。
 けれど、殺せるのは十二月守だけだ。他の守護者は、人の血を恐れる。人の血に触れれば、狂ってしまう。
 忙しい十二月守にはいちいち一件ずつ対応している暇はない。だから人工島エデンは楽園たりえない。特に、十二月守が代替わりした後は最悪だ。慣れない激務に、多くの十二月守は憔悴してしまう。その精神的支えとなるのが他の守護者であり、肉体的支えとなるのが、これまでの守護者が人柱となった巨大生体コンピュータだった。
 眠り姫を基幹とした生体コンピュータには、寿命を迎えた守護者が多く繋がれている。人よりもコンピュータに親和的な守護者に与えられた、それは使命だった。
「お前さんは良い子だねぇ」
 のほほんとデュークは久遠の頭を撫でた。その隣で、セミラミスは嫣然と微笑んでいる。
「アタシが思うに、お前さんは狂わないで守護者の生を全うできるだろうよ。空がいて、マリアがいて、猫がいて、翠がいる。何より伯爵はお前さんの味方だ。忘れちゃいけない、あのお人は確かに狂ってるが、お前さんに有用な人間だ」
「有用無用で判断しちゃだめだよ、デューク。そんなことをしたら、エデンは廃園になる」
 要するに久遠にとって無用だらけだ、と言っているに等しい。
「殺すことに躊躇いは感じないけど、人ひとり分の熱量情報量が減ることにはそれなりの意味があると考える。……分かってないね?」
「あぁ、分からないねぇ。何せアタシぁ頭が良い方じゃぁない」
「人形作れる人が頭悪いなんて、誰も思わないよ」
「職人馬鹿ってヤツさぁな」
 一種の照れ隠しだと久遠は判断した。背には似合わず大きいが繊細そうな掌から感じるのは、優しさだった。
「デューク、久遠が死ぬまで見ていてね。その代わり、守護者はデュークの人形の後見になる」
 簡単に言うが、容易いことではない。守護者の生は限られているが、人形の駆動機関はメンテナンスさえ怠らなければ永遠に等しい。
「守護者はいつか天使になるよ、空のように。地上のしがらみから解き放たれて、強くてしなやかで強い存在に。だから守るものが必要なんだ。放っておいたら空へ飛んで行ってしまうからね」
 その頃には守護者はエデンに執着しないだろうことを、聡い幼子は予見していた。それを恐れているのは、守護者を創った伯爵と女史であることに、あるいは守護者に支えられている眠り姫であることに、久遠は気付いていた。
「お前さんは少し頭が良すぎるようだねぇ。もっと簡単に考えてみると良い、世界の色は違って見えるだろうに」
「考えないと、ダメなんだ。思考停止したら、エデンが世界に喰われちゃう。久遠がいなくても空がエデンを守ってくれるように、考えて考えて考えなくちゃならない」
「お前さんの母親のように、永遠に生きることは選ばないのかい?」
「確実に狂うのが分かってて永遠を望むの?」
 十二月守だからといって狂わないという確約はないのだ。些細なことで狂った場合、狂ったまま永遠を生きることになる。守護者は人に交われば狂う。人の思考を覗き続けて正気でいられるわけがない。
 久遠はよく分かっていた。自分のやり方で持つのは、長くて四十年。その内十年をもう過ごしてしまった。残り三十年。それを過ぎれば、確実に狂うだろう。
 翠は永遠を望まれた時、すでに狂っていた。その狂気は人には分からなかったけれど、守護者すべてがいなくなれば自死を選ぶだろうことは久遠と猫との間で確認されている。「母が望んだ守護者の安寧を守ること」を己に課しているのだ。父の、母を守れという願いはすでに叶えられた。身体中を傷だらけにしても、それを必要とされている証だと言って。
「――そうさな、お前さんの母親は、確かに狂った後だった」
 母の願いを、翠は無下にはできなかった。私と私の愛し子達を、永遠に守って頂戴ね――守護者を永遠に頼むと、「夫に」頼んだのだ。優しく優しく抱きしめて、父親そっくりに育った娘にキスをして、狂った彼女は死んでいった。
「どんなふうに狂うか分からないのに、狂う前に永遠を望むのは、エデンの住人に対して悪いと思わない? だって久遠は、力持つ十二月守なの」
 彼女は、生体コンピュータに繋がれている。死んでしまえば意識はない、狂っていたのも不問だ。意識はあるのかと探ってみたが、生体コンピュータで意識を保っているのは基幹となっている眠り姫だけだった。
「意志が強い、良い子だなぁ。あのスイの子供だとは思えない」
 いや、だからこそ、か。悪魔と罵られても、翠はまっすぐ育った。
「良い子にはご褒美をあげよう。アタシの人形以外で、アタシに何かプレゼントさせてくれるかい?」
「ほんとう? うれしい! それじゃ今日は、デュークとセミラミスと一緒に、イーストモールでお買い物!」
「表情の良く変わる子だねぇ」
 無表情と微笑みと、全開の笑顔と。まだ怒りの顔は見たことがない。悲しむ顔は見た。随分と『参考』にさせてもらっている。
 有機物と無機物の違いはあっても、人の手で作り出されたものに違いはない。この笑顔も、作られたものだ。ただ、自分の手で産み出したものではない。
「久遠は大人しい方だよ? デュークのトコのジゼルと似てるって言われる」
「ありゃぁ大人しいっていうもんじゃない。はにかみ屋って言うんだ。物怖じしない久遠と似てるところなんざぁこれっぽっちも無いさね」
「初期のジゼルを久遠、知らないもんー。華耶さんに教育された後のジゼルは、きっと物怖じなんてしないよ。はにかんで見せておいて、すごく大胆」
 くすくすと笑う。縦に長い男の、細かい作業をするに似つかわしい優しい手に纏わりつきながら、くすくすと。
 性別が無いにしては、人を魅了するなよやかな仕草に思えた。これだから人は、守護者を愛玩したがる。そう執着する人を、守護者は怖がる。
 けれど久遠は怖がらない。だから人は戸惑う。これは何だ、と。
 心を読まれることを知っていて平気で付き合える人間などそう居はしない。既に人ではないといえる眠り姫は別にして、伯爵や女史はそれを望んでいたから兎も角、デュークの他には猫どもくらいのものではないか。もう一人、蔡主も心安いと噂に聞いたことがある。いずれにしても、多い人数ではない。それ以上のことをデュークは知らない。知らなくても良いと思っている。
 人間にしてはたくさんの守護者のたくさんの表情を見てきたと自負はしている。直接は知らないことも、間接的に見せてもらっているとも思う。
「久遠、お前さんは強いから平気で人を踏みつけるがねぇ、守護者のほとんどは人に踏みつけられる側だ」
「だったら踏みつけた人を殺してあげるよ?」
 にこりと微笑んで見上げる瞳は、猫どものように強かった。
「アタシぁ色んな人間を知ってるつもりだけどなぁ、お前さんほど油断ならないのはそう居やしないねぇ」
「褒め言葉と受け取っとく!」
 笑顔を桜の花弁が彩る。
「マァ、見事ナ桜吹雪デスコト」
 笑顔を見上げたセミラミスが、そのまま視線を移し、うっとりと呟いた。

 この桜の見える場所では、大きな争い事は起こらないという。
 それが二十三区を安全な場所にしているのかもしれない。
 塒にするデュークにとっても、気軽に遊びに出られる久遠にとっても、この桜はとても大切な場所だった。人工島エデン二十三区創建当時からあるという、不思議な場所だった。

小説トラックバック(0)  コメント(0) 

 |TOPBack
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。